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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第107話 まっとうな軍人
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ったままのオネーギン氏の左腕が俺の襟首に向けて伸びてくる。反対の右拳が握られていたので、俺はソファから立ち上がり左腕で伸びてきた氏の左腕を掴んで引き込むと、身体を反時計回りに回して右の手刀で左肩の関節をキメて、氏を低いテーブルに押し倒した。
 だが同時にそれまで談笑していたはずのボックスの客やウェイターそして先程のホステスまでが、俺に向けてブラスターの銃口を突きつけてくる。

「おやおや。軍人に銃口を向けるのは、流石にいただけない」

 オネーギン氏の左腕を畳んで肩をキメつつ、撃てば氏も巻き添えになるようにテーブルから引っ立てて、俺は銃口を向ける奴らに聞こえるような声で言った。ガッチリ左腕が決まっているので、俺と氏の間にほとんど隙間はないから、後ろから撃っても貫通して氏にもダメージが入る姿勢だ。

「のこのこ虎穴に入り込んで強がりは止せ、若造」
 腱が切れないギリギリぐらいの強さで絞っているので、オネーギン氏の声もそぞろだが、俺は遠慮せずに後ろから彼の耳元で囁いた。
「私がここに来ることは、当然トリューニヒト氏も軍情報部も知ってますよ? それとも私の口からもう一度同じ言葉を聞きたいですか?」
「ト、トリューニヒト氏なら話は早い。私は彼に言って君を飛ばさせることもできるんだぞ?」
「かつてルビンスキー高等参事官殿が駐在武官長に干渉して、私をマーロヴィアに飛ばしたように?」
「……そうだ」
「『身の程を知れ』拝金主義者。辺境だろうと最前線だろうと、行けと言われればどこへでも行くのが軍人だ」
「……」
「それにもしかして帝国戦艦の大出力砲相手に戦ってきた私に、手のひらに収まる程度の豆鉄砲の脅しが通じると思ってます? ねぇ『グラズノフ』さん」

 ヒュッという気管を空気が通る感触が、氏の背中を通して左腕に伝わってくる。抵抗する力が途端に弱まり、氏が小さく首を振ると、銃口を向けていた客やウェイターが銃口を下ろして全員バックヤードへと消えていく。最後まで銃を向けていたホステスもバックヤードに消えて行ったのを確認した俺は、氏の拘束を解いた。

「幾らだ」
 店内見渡す限り誰もいなくなった中、乱暴な手つきでネクタイを解くと、氏はシャンパンを二杯一気に飲み干して言った。
「幾ら出せば、いいんだ?」
「だから出さなくていいですよ。先程も言った通り、私は『まっとうな』軍人です」
「ならば、何を……」
 口止め料と言いたいところだろうが、もう今更の話だと分かったのか、グラズノフはセットしたくすんだ金髪を乱暴に掻く。任務の失敗を悟ったというところだろう。バックヤードに消えて行った人間は、早速『後片付け』に入っているに違いない。
 だが「やりすぎるな」という指示もあるし、肝心の装甲材の技術は獲得しなければならない。

「幾らで『仕入
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