第三十三話 二人でいられるならその八
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夜寝る前にだ、真昼は部屋の扉から言われた。
「いいですか?」
「その声は真昼ちゃん?」
「はい」
そうだという返事だった。
「お話したいことがありますが」
「入って」
真昼は微笑んで答えた。
「それじゃあね」
「わかりました」
真昼は頷いた声を出した、そしてだった。
中に入るとだ、パジャマ姿の真昼と向かい合って座布団の上に座った。見れば彼女は白いパジャマ姿である。
「実は気になることがありまして」
「気になること?」
「この前大阪に行きましたが」
「私達の実家に帰った時ね」
「あの時難波の街を少し歩きましたけれど」
そうしたがというのだ。
「変わった人を見ました」
「どんな人?」
「ボルサリーノの帽子を被って」
白華はその人のファッションを話した。
「着流しの着物に身体全体を覆うマントでした」
「その恰好なの」
「外套みたいな」
そのマントの形をさらに話した。
「そうした風で面長の男の人でした」
「面長ね」
「小さな目の」
今度はその人の目の話をした。
「そうした人でした」
「ああ、その人知ってるわ」
ここまで聞いてだ、真昼は応えた。
「どなたかね」
「ご存知なんですか」
「その人織田作之助さんよ」
この名前を出した。
「小説家の」
「あの、その人確か」
その名前を聞いてだ、白華はまさかという顔で言った。
「もう」
「昭和二十二年一月にお亡くなりになってるわ」
「そうですよね」
「三十四歳でね」
「若いですね」
「結核でね」
当時結核は死病であった、作家では宮沢賢治も梶井基次郎もこの病気で亡くなっている。他にも多くの人が命を落としている。
「そうだったわ」
「幽霊ですか」
「そう、何でもね」
真昼は白華にさらに話した。
「あの人大阪が大好きだったから」
「大阪で生まれ育ったので」
「作品の舞台も大阪が多くてね」
「大阪で暮らしてましたね」
「そうだったのよ」
だが作品の取材で東京に行った時に結核が悪化してその地で命を落としてしまったのだ。そうして死んで大阪に戻ったのだ。
「お墓も大阪にあるし」
「まさに大阪の人ですね」
「そうした人で行きつけだったお店も多いし」
「カレーの自由軒とか夫婦善哉ですね」
「法善寺横丁にあるね」
「そうでしたね」
「本当に大阪が好きだったから」
だからだというのだ。
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