激闘編
第九十六話 旅立ちのとき
[6/10]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
助けをしたいと思う様になったというのだ…。
事実だったら、事実とは思いたくもないが、俺のここまでの道のりには皇帝の意が働いていたというのか…だとしたらまさに喜劇だ。俺は俺自らの能力でここまで来たと信じたい。だがそうではないとしたら、俺の人生は一体何なのだ…。
「陛下はこうも言われた。『ルドルフに出来た事が俺に出来ないと思うか、か。そういう風にあれに思わせたのは予のせいじゃ…この乱れた治世を変える力は最早余には無い。望まれぬまま皇帝の座についた余じゃ、ならば皆が望まぬ事をしても文句は言われまい、簒奪を望むのならそれもよし…あれを罰する事はせぬ、だが帝国を護る事は忘れるなと折をみてミューゼルに伝えよ』と」
返す言葉がなかった。帝国を護る?俺はあの男の後始末をつける為にここまで来たのか、来させられたのか…いや、それだけの存在なのか?
「そしてこうも言われた。『そなたがミューゼルに余の言葉を伝えたならば、あれは余をこれまで以上に憎むであろうな。だがそれでよい。余の意を明かした以上はこれまでの様に庇う事は出来ぬ。簒奪は簡単には成らぬぞ、と申せ』と」
言い終わるとミュッケンベルガーは再び窓の外に目をやった…皇帝の意を告げられた時、ミュッケンベルガーは何を思ったのだろう…。
「閣下…皇帝陛下は何をお考えなのでしょう…」
「…嘆いておられるのやも知れんな、帝国を。帝国の現状を。そして自らを…畏れ多い事だが」
ルドルフに出来た事が俺に出来ないと思うか…ふと、皇帝の、あの男の立場になって考えてみたくなった。望まれずに皇帝になった故に政治的基盤は小さい。自分の娘を有力貴族…ブラウンシュヴァイクとリッテンハイムに嫁がせ、宮中の安定を図った。結果、その二つの権門は外戚として力を増し、政府も無視出来ない力を持つに至る。対外的には居ない筈の外敵、叛乱軍との戦争が続き、国内の開発もおろそかになる程の経済的苦境に陥っている…。
「フェザーンで捕虜交換を行うとすれば、捕虜の移送も含めて実施まであと一ヶ月というところだろう。重ねて言うが、卿はすぐにオーディンを発ち、シャンタウにて麾下の艦隊と合流せよ。有志連合とやらに好き勝手させるな。よいな」
ミュッケンベルガーの言葉で現実に引き戻され、了解の意を伝えて執務室を後にした。姉上の事は気になるが、ミュッケンベルガーの言葉が本当なら何か策があるのだ……四百三十六年にティアマトでブルース・アッシュビーに敗れ、帝国軍は人的、物質的大敗北を喫した。その回復の為にイゼルローン要塞という蓋の建設を開始、俺が生まれた年に要塞は完成した。帝国軍も回復を成し遂げたものの以前とは指揮官の構成の異なる組織に変わりつつあった。平民の台頭だ。依然として貴族は強大な力を持っていたが彼等は軍から去っていた。軍の再建は帝国にとって大きな負担だっただろ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ