激闘編
第九十六話 旅立ちのとき
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ハイムの子飼い、一門の不手際は私の失態でもある、容赦されたい」
「私は公を責めておるのではない。軍の不手際をどうするか、という事だ。違うかな、国務尚書」
まるで、二人で申し合わせたかの様なやり取りだ。いや、お互いに何を喋るか実際に申し合わせて居るのだろう…ブラウンシュヴァイクは傲岸、リッテンハイムは不遜…両者の目はいやらしく光っている。用意させた飲物にも手を付けていない。饗応を受ける気は無い、我等は、貴族は怒っているのだとでも言いたげに…。
「では、ご両所には何か名案がおありかな」
私の問いにリッテンハイムが深く頷く。
「我等が力を貸そう」
「何と申される?力を貸す、とは」
「言葉そのままの意味よ。我等とてただ難癖つけているだけ…と思われるのも癪なのでな。辺境の平定に力を貸そうというのだ」
「それは有難い申し出ではあるが、軍とて面子はあろう。素直にはいそうですか、とは言うまい」
「ふん、その辺の貴族の小倅同士の嫁争いでもあるまいし、面子がどうとか申しておる場合ではなかろう?そもそも軍がしっかりしておれば、我等が前に出る事は無いのだ。それにだ、我等が進んで軍に協力すれば、ミュッケンベルガーに我等を見張らせておく必要もあるまい?違うかな?」
軍務尚書を通じて、軍の主力を首都に留め置く様ミュッケンベルガーに依頼したのは私だった。口に出すのも憚る事ながら陛下は健康とは言えぬ。陛下が再びお倒れになれば、この二人が動き出すのは必定、混乱を避ける為に必要な措置と考えたからであった。それを逆手にとるとはの。じゃが……。
「…承知した。軍には私から話す。しかし捕虜交換については既に勅裁を得ておる故、実行せねばならぬ」
再び捕虜交換の件を口にすると、ブラウンシュヴァイクは難しい顔をしたが、二重人格者の様に爽やかな笑顔を見せると、
「それだがな、侯。軍にやらせればよい。政府が前面に出ると、我等はともかく一門や諸侯が叛徒共に膝を屈した…などと騒ぎ出すやも知れぬのだ。帝国貴族四千家、一度騒ぎ出したら我等二人でも抑えられぬ…かも知れぬ」
と言い、それを聞いたリッテンハイムがすかさず相槌を入れた。
「それがよい。これまでの戦いの中で生まれた虜囚であるからな。軍と軍との話し合い…それですら癪に触るが、これなら一門諸侯も文句はそう言うまい。いやはや、よかったよかった」
よかったよかった…これで話は終わったと言わんばかりに二人は陛下のご息女や孫…互いの妻や娘の事を話し出した。何の事はない、現在の状況を自分達の勢力伸張の為に利用したいだけなのだ、その為の行動を正当化する言い分を並べに来たに過ぎない。確かに政府同士の交渉となると叛乱軍を対等の存在と認めた事になる。二人の言う通り貴族達が騒ぎ出すのは想像がついた。ならば軍に、とも考えたが、軍は前面に出る事に難色を
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