第7話 ワンズ・クライ・アウト
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あるため彼の腕前に個人的に興味が湧いていた。
「…ったく!MC長ぇって、またネットで叩かれる前にやんぞ、ほらっ!」
「ぷっ、何だそりゃ」
ワンクラのMCがタラタラと長いとネットで叩かれているのを見たことがある。そのことすらネタにしてしまう瑞貴の言葉に桃香は吹き出した。彼の乱暴な話し方が心地いい。彼女の目の前にいるのは、あの頃の落ち着いた委員長じゃない。紛れもないロックバンドのボーカルだ。
「まずはデビュー曲から。終わりの先へ。俺たちの叫びを聞け!」
『終わりの先へ』は王道ロックといった感じの曲だ。ムラがあると聞いていたが、ドラムのハマりも良さそうだ。金清のギターソロは思わず引き込まれる。俊哉のベースはとにかく乱れない。熟練の域だ。陽貴のキーボードは性格無比だ。桃香は詳しくは知らないが、彼は幼少期にコンクールで受賞を連発していたと音楽界で話題になっていた。実力に裏打ちされた迷いのない鍵盤叩きだ。繊細なタッチも難なく、こなしている。瑞貴のボーカルは高低差はあまりないが、とにかく抑揚のつけかたが上手い。さすがは演歌歌手の孫といったところだろうか。
「お前ら、今日はありがとな!最後は新曲やるぜ!それでは聞いてください…アザレア」
瞬く間に時間は過ぎていく。4曲披露していたが、ドラムの調子に左右されるというのを加味しても全体のレベルが非常に高い。そして『アザレア』は、これまでのアップテンポの曲とはうって変わりミドルテンポの曲だ。キーボードとボーカルの掛け合いが良い。アザレアは川崎駅のアゼリアから取ったのだろうか。ちなみにアゼリアとは川崎市の花で西洋ツツジを意味する。
(これ、もしかしてラブソング…か?)
桃香は路上ライブをしたことを瑞貴に話している。ツイッターを見て場所を知ったのかもしれない。ただ彼と会ってから数日しか経っていない。大学通学の合間を縫って新曲を作ったのだとしたら、かなりハイペースだ。完成していた曲に歌詞を乗せたのかもしれない。
「最初からやれー!」「モア新曲プリーズ!」「アンコール!アンコール!」
「殺す気か、お前ら!」
最後まで愛のあるヤジが止まらない。瑞貴の乱暴な言葉遣いもファンとの信頼関係があってこそだろう。桃香は奇妙な気恥ずかしさもありつつ、満たされた気持ちでライブハウスを後にするのだった。
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