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渦巻く滄海 紅き空 【下】
八十七 対話
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、むしろ精神的に追い詰められている風情だった。

だから少しでも彼女の気持ちを軽くして、背中を押してやりたかったのだ。
ナルの張り詰めていた感情や心を多少なりとも解き解したかった。

ひとりで何もかも背負い込むな、と。
同時にナルに対して後ろめたそうなチョウザといのいちの罪悪感も払拭させたかったのだ。

なにもかもシカクの手のひらで踊らされていたと知って、苦笑しながらも、チョウザは「改めて、謝りにいこうとしよう」と力強く頷く。
大人の威厳やらプライドなど関係なく、純粋に謝罪する。

謝って許されるものではないが、それでも今後はナルの為に、そして我が子のチョウジの為、大人として恥じない生き方をしなければ。

そう決意するチョウザの隣で、いのいちが気遣わしげにシカクを流し見た。


「…シカマルのことで正気じゃなくなったかと思ったぞ」
「……息子を失って平気な親なんていねェよ」

双眸を閉ざし、眉間に深い皺を寄せて、シカクは唇を噛み締める。
普段は冷静な我が子がナルの為に敵地へ自ら飛び込み、ナルを庇った。
その行いは忍びとしてはお粗末だが、男としては誇り高い所業だ。

「だが目の前で失ったナルのほうがよほど…、」
「それなんだがな、シカク」


シカクの言葉を遮って、いのいちは言いづらそうに言葉を選びながら、それでも結局、直球で真実を告げた。



「おまえの息子、生きてるぞ」
「……は、」


策士にしては珍しい、ぽかんとした顔を見て、横にいたチョウザが「シカクのそんな顔初めて見た」と空気を読まずに呟いた。

「いや…今、いのから連絡があってな…」



山中一族秘伝の【心伝身の術】。
現在いのが修行している術だ。本来は術者が中継ポイントとなり手で触れた対象の意志を広範囲且つ脳内に直接伝達する【感知伝々の術】の応用術だ。
術者の負担が大きい高難易度の術だが、山中一族同士での伝達だからか、或いは、父であるいのいちよりも娘のいののほうが適性があるのか、父娘の間での伝達はそこまで負担がかからないものだったようだ。

遠く離れた場所にいる父親へ、【心伝身の術】でいのが脳内で伝達してきた内容を、いのいちはそのままシカクへ伝えた。

「命にかかわるほどの重傷だったが、なんとか持ち直したそうだ」



息子の生存を耳にし、シカクは目元を手で押さえて、空を仰いだ。

「はは…」と笑みが漏れるその顔は手で覆われて窺えないが、シカクの気持ちは同じ親として痛いほど理解できたチョウザといのいちは、何も言わず、いつもの飄々とした調子に戻るのを待っていた。
しばらくしてから、昔馴染みの予測通り、普段通りに戻ったシカクが、にやり、と口角を吊り上げる。


「これで俺は未来の娘を
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