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渦巻く滄海 紅き空 【下】
八十七 対話
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底から安堵する。


「だがナル、忘れるな」

直後、真剣な眼差しを件のシカクから向けられ、居住まいを正したナルは、彼の一言に眼を見張った。


「おまえを信じている人間がここに、そして里にもいるってことをな」

シカクの両隣で、いのいちとチョウザもそれぞれに頷く。
かつて自分を九尾と同一視し、忌避してきた大人ふたりの態度の変わり様に、ナルは戸惑った。

「おまえはもうひとりじゃない」


大好きな幼馴染である山中いのと秋道チョウジの父親だから嫌われたくないと望んでいたけれど、それは無理な願いだと幼き頃にとうに諦めていた。
その願いが今、叶って、喜びよりも動揺のほうが大きいナルは、暫し、呆けたように立ち尽くす。



「だから…生きて、帰ってこい――俺は、俺達はおまえを信じている」



けれど、シカクに言葉で背中を押され、ハッと我に返った彼女は、じわじわと動揺よりも歓喜が打ち勝ってきた。
心の内側からなにか、あたたかいものを感じ取って、顔を伏せる。
やがてぱっと顔をあげたその表情は、ペイン天道に勝利した時よりずっと明るいものだった。


「ありがとう…シカクのおっちゃん…」

そうして、チラリといのいちとチョウザに視線を投げる。
ふたりにも「ありがとうだってばよ…!」とお礼を述べると、振り切るように彼女は背中を向けた。






ペイン本体のもとへ走り去るナルの背中を見送りながら、いのいちはシカクを肘で小突いた。

「…おまえ、俺らを嵌めたな」
「なんのことやら」と肩を竦めたシカクに「らしくないと思ったんだよな」とチョウザが苦笑する。

「おまえにしてはお粗末な術だったしな」


シカマル以上の策士と謳われるシカクにしては、ナルが【影縛りの術】をあっさり抜けれたこと自体が、チョウザといのいちには違和感しかなかった。
本気で敵意を向ける相手ならば何重にも罠と策を仕掛けておき、まるで張り巡らされた蜘蛛の巣に雁字搦めにして抜け出せなくなるよう仕向けるのが昔馴染みの知る策士の手腕だ。

故に、早々にシカクの術を破ったナルを見て、これはなにかあると勘付いたいのいちは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「俺達がナルに謝る機会をつくろうと、わざとあんな態度を取ったのか」



過去のナルに対する自分達の態度を省みて、罪悪感を募らすも、彼女に直接顔を合わせる機会がなかった。
いや、あえて遠ざけてズルズルと今まできてしまった。

それを見透かしていたシカクがわざと自分が悪者になることで、彼女に対する認識が昔とは違うと、いのいちとチョウザに伝えさせたかったのだ。
また、なぜこのタイミングかと言うと、ペイン天道を倒したはずなのにナルの顔は晴れておらず
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