暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪
第三部 1979年
迷走する西ドイツ
暮色のハーグ宮 その3
[5/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
めである。
「例の事件はお前が絡んでいるのか」
マサキの問いに、ゲーレンは黙って(かぶり)を振った。
「ゲーレン……」  
「礼が欲しいわけではない……
全てはドイツ国家自存自衛のためさ」
ゲーレンは持参した鞄を開けると、紙の束を取り出し、テーブルの上に広げ、おもむろに語りだした。

 女スパイ、アリョーシャ・ユングの生い立ちから始まり、その勤務実態と交友関係などへ話をすすめた。
 1972年にBNDに入った後、1973年に新設された連邦軍大学で幹部職員研修を受けた。
その際に西ドイツ軍の将校と知り合いになった経緯を、いっさい無駄な修辞(しゅうじ)を交えず、語った。
 最後に、戦術機の機密情報提供に関しては、背後に米国大統領顧問団(米国の内閣)の閣僚の影が見え隠れすると付け加えた。

 ゲーレンは語り終えて、息を突き、椅子の背もたれに身を預けた。
マサキは暫く黙っていたが、ゲーレンに静かに言った。
「よくわかった」
言葉を切ると、タバコに火をつける。
「ドイツ連邦軍まで関わっているとは、思いもよらなかった」
 紫煙を燻らせながら、脇にいる鎧衣の方を向く。
それを受けて、鎧衣がゲーレンに語った。
「先日、木原君から話を聞いて、すぐにこの一件を調べ直したところ、ユング嬢の足取りがニューヨークで消えていました。
どうやら本来は、大罪である情報漏洩をしたユング嬢を西ドイツに戻すこと。
BNDには、CIAの諜報活動に全面協力をするという密約を結んだ。
そのことによって双方両得し、丸く収めたとするつもりだったらしいのです」
 古今東西、権力機構の人間関係は複雑だ。
派閥間での激しい権力闘争が進行中で、時として外部にその内情が漏れ伝わることがある。
 鎧衣は、米国内から出てくる膨大な情報を綿密に調べて、その一端をつかんだのであろう。
すぐれたスパイとはかくあるものなのかと、マサキは感服を覚えた。

「ありがとうございます。
これで、ドイツの政界は落ち着くでしょう」 
 ゲーレンは、マサキ達に深い謝意を伝えた。
その際、脇に立っていたココットがマサキの傍に駆け寄る。
(ひと)区切(くぎ)りついたら、バイエルンで私と暮らしませんか」
 突然の事に、びっくりしてマサキはココットを見つめた。
ココットも、強い情炎の光を放つような眼差しで見返して来る。
 思わず、マサキはココットの唇に、自身の唇を重ねていた。
ココットは、マサキの春機(しゅんき)に抗いもせず、受け止めていた。
 マサキは情炎の誘惑に勝てないで、ココットの柳腰に手をかけて、引き寄せる。
まるで根元の朽ちた古木のようにココットの体が傾いて、マサキの胸に倒れてきた。
これには、マサキが慌てた。
 二人が見つめ合ったのは一瞬だった。
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ