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冥王来訪
第三部 1979年
迷走する西ドイツ
暮色のハーグ宮 その3
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 床に崩れ落ちた王配殿下は、マサキの顔を見るなり満足そうに笑みをたたえる。
今、彼の命が旦夕に迫っているのは明確だった。
「フフフ……君もいずれ判る。
政治という泥の中に身を置けば、体中が泥で腐っていくのを……」
 王配殿下は、オートマグを、自分のこめかみに押し付ける。
マサキが原因での死を、受け入れられないという姿勢だった。
「さらばだ」
 その瞬間、銃声が鳴り響く。
弾は頭を貫き、王配殿下は黄泉路へと向かった。

 西ドイツでの電撃的な内閣総辞職の翌日。
オランダは、全土で火が消えたようになっていた。
アムステルダム、ロッテルダム、デン・ハーグ、デルフトの各都市には黒い弔旗が垂れ下がる。
 国家元首の女王殿下とその夫である王配殿下の本当の死因は隠された。
蘭政府により、二人が交通事故により薨御(こうぎょ)したと公式発表された。
 王配殿下が運転する車が、西ドイツに向かう高速道路を走行中、事故を起こした。
カーブを曲がり切れずに、路側帯に衝突し、自爆事故を起こしたという形となった。
 乗っていた1978年型の真紅のシボレー・コルベットは、瞬く間に燃料タンクに火が移った。
ウレタン製のバンパーが燃え盛り、消防隊が到着するころにはすっかり焼け落ちていたという内容だった。 
 オランダ政府の動きは早かった。
二日後、国葬を執り行い、3日間の喪に服すよう国民に告げたのであった。

 蘭王室の対応に接したマサキは、疑問に感じていた。
国家元首の死と国葬、議会による後継者指名と新王即位。
 王の死からあまりにも早すぎる動きに、何かしらの作為が見て取れる。
一種の宮廷革命であり、女王殿下と王配殿下の排除が事前に準備されていたのではなかったか……
これほど短時間で、国葬と国王宣言(即位式)は出来ない。
 王配殿下は反対派によって暗殺され、ビルダーバーグ会議からの離脱、或いはマサキとの融和を望む勢力が権力を奪取したのではないか。
 そうすると、ビルダーバーグ会議の情報を提供したゲーレンとココットが危ない。
ゲーレンは既に70を超えた老境だ。
いつ彼に、ヴァルハラからの迎えが来ても仕方がないが、ココットはまだ20歳そこそこだ。
 BNDの秘密情報部員の彼女に待つ運命は、悲惨だ。
恐らく秘密情報を扱う都合上、男と簡単に関係することは難しかろう……
 事と次第によっては、誰にも看取られず、人知れず死んでいくのであろう。
前々世において、防衛庁長官の陰謀のために暗殺され、人知れず葬り去られた。
ココットの姿を過去の自分に当てはめたマサキは、涙を禁じ得なかった。

 
 その夜、マサキ達は、ベルクにあるゲーレン宅に滞在していた。
今回の事件の目的であるBNDの女スパイの情報と、ココットの進退について問うた
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