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冥王来訪
第三部 1979年
迷走する西ドイツ
暮色のハーグ宮 その3
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れば、70歳ぐらいの老婆が、血の池の中に倒れていた。
右手にイタリア製のベレッタM1951Rを握ったまま、動かない。
 目の前の死体は、後頭部から前頭部にかけて撃ち抜かれている。
どうやら、マサキの放った弾が、死因ではないようだ。

 物陰から姿を出してきたマサキに、王配殿下は声をかける。
「木原博士、これで邪魔者はいなくなった。
貴族として、名誉のために、一対一の決闘を君に申し込む」
突如とした決闘の申し込みに、マサキは面食らった。
「何!」
「木原博士、私は猛烈に感動しているのだよ。
君と対決できることにな……」
「そんなオモチャのピストルで俺を撃つのか。
フハハハハ」
 ハリー・サンフォードが作った44オートマグには、重大な欠陥が存在した。
それは1970年代当時の未熟なステンレス加工による動作不良の多発である。
 また自動拳銃故の機構の複雑さも、射撃に影響した。
頻繁に手入れをしなくてはならず、コッキングスプリングもかなり強力で非力な女性などには扱えなかった。
「そういうが、君の拳銃は6連リボルバー。
この銃は7連弾倉の自動拳銃。
リボルバーで、オートマグの前に生き残れるかな」
 マサキはもしもに備えて、ナイロン製のインナーベスト型の防弾チョッキを着ていた。
だが精々効果があるのは25口径ほどで、マグナム弾では貫通してしまう恐れがあった。
 この勝負は、マサキにも賭けだった。
そんなマサキの焦りを見たのか、王配殿下は不敵に笑う。
「今、私たちは19世紀の欧州にいるのだよ。
神妙に決闘を受けたまえ」
 そういってピストルを持つ右手を前面に出した状態で、マサキの方を向く。
ポイントショルダーと呼ばれる射撃方法で、冷戦時代に一般的な方法だ。
利点は体の向きを変えることで銃弾の被害を抑えられることだが、弱点として弾道が安定しなかった。
今は射撃競技にのみ残る古典的な手法である。
 対するマサキは、両手でM29を持ち、王配殿下に相対(あいたい)する。
この二等辺三角形の構え方は、当時非常に珍しかったアイソセレスと呼ばれる拳銃の保持方法であった。
利点は銃身が安定し、弾道が正確になるが、弱点として、無防備の胴部が晒されるという事だった。
「ここに1ペニー硬貨がある。
このコインが、宙を舞ったら、決闘の合図だ!」
(ペニーとは、英国及び英連邦における補助通貨の単位である)
 王配殿下が合図のコインを投げると同時に、マサキはリボルバーの引き金を引いた。
一閃(いっせん)の光がほとばしる。
 勝負は、一瞬にして決まった。
マサキのはなったマグナム弾が。王配殿下の腹部を貫いた。
「すべてを捨てて、純粋に悪のために生きる俺の姿が……
世界を征服するという野望のためにいる俺が羨ましかった」

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