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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第106話 憂国 その6
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音を上げてホットスムージーを啜る俺の顔に向けられているのが分かる。俺が言っていることがどういうことか、正直測りかねているようにも思える。であれば、直球っぽいスライダーを投げ込んでやるべきだろう。

「実は先生。小官も今夜ここに来るまでに、野犬の集団に襲われまして」
「野犬……それはいけないね、ボロディン君。大事なかったかい?」
「正直申し上げて背中がまだちょっと痛いのですが、人の友として調教された猟犬とは違って、見境なしに襲い掛かるだけの畜生に過ぎません。特に問題なく『処理』いたしました」
「……」
「後から来た治安警察の方にも駆除にご協力いただきました。今後の社会不安を考えますと、現場周辺での定期的な巡回と、マスコミによる注意喚起が必要と思われます」
「……」
「もし諸般のデータがご入用でしたら『ご用意』出来ますが、いかがでしょう?」

 これが脅迫なのはトリューニヒトも当然分かっている。俺が反戦市民連合のメンバーだとはつゆにも思ってはいないだろうが、襲撃に巻き込まれたことは理解しただろう。トリューニヒトの浮かべる笑みは一切変わらず、右手人差し指が蟀谷に当たっている。流石に怪物。声を上げて逆ギレするようなタマではない。

「……しかしこの国は自由の国だ。野犬が出るからと言って通行の自由を阻害するようなことはできないし、治安警察も他の重犯罪への対処に忙しい。国家の財政難は君のよく知るところだろうとは思うが?」
「幸い小官は軍人でして、銃器を使わずとも自分の身はそれなりに守れるつもりです。ですが一般市民はそうではありません」

 襲撃に際し、いきなり爆弾や家屋破壊弾を利用する奴らに対して銃器がどれほど役に立つかは不明だが、対立する二つの思想政治集団の私兵集団が法的に制約されなければ、武装のエスカレーションは歴史の証明するところだ。
 原作ではいわゆる左翼側の団体にそう言った武装集団の存在は記載されていない。恐らくソーンダイク氏のリーダーシップもあることだろうが、スタジアムの虐殺が発生した時、なぜか火炎瓶を用意している奴らが居た。ガソリンや灯油といった引火物資をなぜそんなに早く調達できたのかはわからないが、徴兵による軍事知識の市民内における一般化があることは間違いない。

「国家経済を支える善良な市民が、いつ襲われるか不安におびえるような社会になる前に、手は打っておくべきだと思われます」
「『善良な市民』が、自己防衛を名目に法を犯して武装するとは思えないが?」
「治安警察ご出身の先生には釈迦に説法とは存じますが、古来の農政家が残した言葉があります」
「ほう?」
「経済なき道徳は寝言であるが、道徳なき経済は犯罪である、と」

 反戦市民連合の根幹に戦争忌避がある以上、余程ソーンダイク氏が現実路線への転換を推進しない限
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