第106話 憂国 その6
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ン秘書官を見つめ直す。だが彼女の視線は俺の顔ではなく、握られた手に落ちている。
「私自身も実のところ両親がどんな人間か知らないのですが……中佐は『人間牧場』という言葉はご存知で?」
「人間……牧場……」
考えるだけでおぞましい言葉だ。俺の前世でもホラー漫画だったか、特撮映画だったかにあった気がする。何らかの目的の為に人間から基本的人権を奪い、家畜として飼育される場所。ただし銀英伝の本編にも外伝にもそんな記述は一切ない。
遺伝子操作によって帝国内部では食人の気質を持つ有角犬が生産されていた事実はある。それに加えてフェザーンには銀河系の誰もが知っている『標語』がある。しかし現実にそんなことがありうるのか……
「最初の記憶にあるのは『乳母』と呼ばれる老婦人の下で、同い年位の女の子達だけでなに不自由なく山奥の寮のようなところで暮らしてましたわ。時々、お友達が消えていくのが不思議でしたけど、病院併設の孤児院ということで乳母曰く『いい養父母に』貰われていったそうです」
その同級生の中で黒髪だったのはチェン少女ただ一人。人形のように整った幼顔で、一六歳に迎えた『卒園式』でも一二歳に満たないような容姿だったという。しかしそれまで二〇回以上に及んだ『里親面談(セリ)』が全て破談に終わり、チェン少女は同級生の中でも特に選りすぐりの美少女数人と一緒に病院のような建物に連れて行かれ……生き地獄のような日々を送ることになる。
「食事にも教育にも大変配慮されてましたけど、『運動』はそれほどでもなかったですわ。ただ秋から冬にかけてだんだんとお腹周りが大きくなり、春には手術台に横になるという生活(スケジュール)でした」
体力があったのか、はたまた運が良かったのか。チェン少女は四人目まで体調に問題はなかった。しかし一緒に連れてこられた同級生達は毎年繰り返される『生産活動』に、歳を追うごとに精神と体調を崩していく。ちなみにその建物には同級生以外にも年上の女性が暮らしていて、こちらは『隔年組』と言われていたらしい。
「幸い私が二〇の時に、手入れがありまして。その指揮を執っていらしたのが、今の自治領主閣下というわけです」
話している間ずっと、俺の手はチェン秘書官に握られている。あまりの告白内容に、大して中身の入っていない頭が重くなり、背もたれの上辺に引っ掛かって声の出ない口が車の天井に向かって開く。
作り話にしては突飛にすぎる。フェザーン警察に諮ったところで、無言の苦笑しか返ってこないだろう。だが本性を見せないチェン秘書官のワレンコフに対する愛情にも似た絶大な忠誠心の背景とすれば納得できる話だ。
そして彼女が二〇歳の時に産んだ子供は、おそらく俺と同い年。妖艶でもなければ殺気だったものでもない。今までに見たこともない深い愛情を
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