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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第106話 憂国 その6
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ない」

 できれば憂国騎士団の現状が耳に入る前の方が後よりもいい。会場で暴れた底辺青年労働者のビクトル=ボルノーが俺だと分かるのは、奴のオフィスであるべきだ。あの後始末が下手な治安警察の小隊長殿が、監視カメラを使って俺を追い詰めにかかるまでには、少し余裕はありそうだとしても。

「……先生が諫言を受け入れてくださると、お思いですか中佐?」
「相手が受け入れようが受け入れまいが、するのが諫言というものだと思うよ」

 憂国騎士団、ひいては地球教徒と手を切れと口で言うのは簡単だ。だがヨブ=トリューニヒトには当然のことながら政治的目標があり、その目標を達する上で合法・非合法問わずに動ける『駒』としての価値が奴らにはある。その価値以上のメリットを提示しない限り、手を切ることは当然ない。それは道義とか仁義とか正義とか、彼が普段から口にしている言葉のような薄っぺらいものではない。

「到着までにどのくらいかかる?」
「三〇分弱です」

 音もなく走り出した地上車の後部座席で、隣に座ったチェン秘書官が車のサイドボックスから消毒用のウェットティッシュを取り出し、俺の手を丁寧に拭いていく。あの女子学生からもらったハンカチでは落とせなかった手の皺に詰まって固まった血糊が、ティッシュに赤い線を描く。左手が終わったら今度は右手。指先の爪から手首まで。その動きは貴重品を磨くように丁寧で、どことなく官能的ですらある。

「中佐は私の事をお聞きにはならないんですね」
 俺の手を取りながら、その皺の一本一本に血糊が残っていないか見つめているチェン秘書官が、自虐的な憂いと寂しさが籠った声で零した。
「ピラート中佐もその前の補佐官も、皆、なんとか私の背景を探ろうとしておりましたのに、ボロディン中佐は全くなさらない。それなのに私のことをよくご存じで」
「そういう筋に強い友人がいるからね。餅は餅屋に任せた方がいい」

 自分で調べたところでせいぜいトリューニヒトくらいまで。おそらくC七〇にすら手が届かないだろう。本人に直接聞く『危険性』は十分承知している。ピラート中佐には理解してくれる味方が周囲にいなかった。その前の補佐官はどうだか知らないが、妖艶な色気と図抜けた胆力そして整理され機転の利く頭脳を持つ美女に、夢中になっていた可能性はある。
 まぁあれだけアケスケな色仕掛けもあったものでもないが、二六・七で未婚のボンボン中佐であれば引っ掛かると思われたかもしれない。舐められたと思うが、そう思われるだけの要素は俺には十二分にある。

「実は私。フェザーンに居た頃に、四人ほど娘か息子がおりましたの」

 だがそんな微妙な懐かしさをブッ飛ばすような爆弾が、いきなり小さな唇の隙間から零れ落ちた。瞬時に俺は首を軸回転させて、未だに手を撫でるように触り続けるチェ
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