第七百六十六話 沙羅双樹の花その四
[8]前話 [2]次話
「そんな人はどれだけ有り難いものに触れても」
「変わらないのですね」
ラメダスは眉を曇らせて応えた。
「それこそ」
「なにもです」
「そうなのですね」
「大抵の人はです」
セーラはラメダスに話した。
「平家物語の序文に触れますと」
「考えが変わりますね」
「ある程度でもです」
「よくなりますね」
「それだけ心に残る名文なので」
だからだというのだ。
「それで、です」
「変わりますね」
「祇園精舎の鐘の声もですが」
「沙羅双樹の花の色もですね」
「名文ですので」
だからだというのだ。
「生き方に影響が出ます」
「そうですね」
「それが大抵の人ですが」
「今お話している様な人は」
「その序文に触れましても」
平家物語のというのだ。
「まことにです」
「変わらないですね」
「どれだけ素晴らしい教えに触れても変わらない」
ベッキーは難しい顔になって言った。
「恐ろしいですね」
「そうですね」
「そうなることは」
「よくなることがないということは」
人間としてというのだ。
「まことにです」
「恐ろしいことであり」
「絶対に避けたいですね」
「人として」
「左様ですね」
「堕落はあります」
人がそうなることはというのだ。
「ですがそれもです」
「人間としての中ですね」
「その範囲内でのことですね」
ラメダスもベッキーも言った。
「あくまで」
「その中であるべきですね」
「そうです、決してです」
「人の底を抜いてはいけない」
「餓鬼まで堕ちてはならないですね」
「餓鬼はまことに浅ましく卑しく」
そうした存在でありというのだ。
「惨めで苦しいものです」
「何もないですね」
「まことに」
「そうです、楽しさや喜びなぞはです」
そうしたものはというのだ、セーラはここで鐘の音を聴いたがそれは宮殿の時間を知らせるもので祇園精舎のものではなかった。
「なくです」
「そうしたものしかなく」
「いいことはないですね」
「生きものならです」
畜生と呼ばれる者達はというのだ。
「喜怒哀楽がありますね」
「喜びもですね」
「それもありますね」
「はい、楽しさも」
そちらもというのだ。
「勿論苦しみもありますが」
「それと共にですね」
「喜びや楽しみもありますね」
「ですが餓鬼は身体が人間である間も」
この時もというのだ。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ