第一章
[2]次話
タイコウチ
葬送の女神セルケト、穏やかな顔立ちの彼女の頭には一匹の虫があるが。
「あれは蠍だぞ」
「毒を持つあの蠍だ」
「セクメト女神の頭に乗っているのは蠍だ」
「セクメト女神は毒から我々を守ってくれるんだ」
「蠍や毒蛇から我々を守護して下さるんだ」
「素晴らしい女神様だ」
「これからも護って頂こう」
こんな話をしてだった。
人々はセクメトを信仰していった、だが当のセクメトは困った顔になって友人のバステト、猫の頭を持つ女神で豊穣を司る彼女に言った。
「私は葬送を司っていて」
「本来は毒とは無縁ね」
「ええ」
まさにと答えた。
「そうなのに」
「それが最近はね」
「蠍や毒蛇から人間を護る」
「そんな風に言われているわね」
「確かにね」
セクメトは浮かない顔で話した。
「どちらも人間の世界では恐ろしいものよ」
「蠍も毒蛇もね」
「刺されたり噛まれたら死ぬから」
その毒によってであることは言うまでもない。
「だからね」
「恐れられているわね」
「ええ、それでね」
「貴女がそうした女神であるとね」
「崇拝されているわね」
「そうなってきているわ」
「いいことと言えばね」
バステトはセクメトに話した、今二柱の神々はセクメトの邸宅で共に飲み食いをしながら話をしている。
「いいことね」
「ええ、けれどね」
それがというのだ。
「そうなった原因は」
「貴女の頭ね」
「これの為よ」
自分の頭の上にあるそれを触りつつ話した。
「全てはね」
「そうよね」
「これが蠍だからって」
この毒のある生きものだからだというのだ。
「私が頭に蠍を持っている」
「それならね」
「私が毒を抑えて」
毒を持つ蠍をというのだ。
「それでね」
「人間を毒のある生きものから護る女神ね」
「そうなっているわ、けれどね」
「実はね」
「これ蠍じゃないから」
その生きものに触れたまま言った。
「ダイコウチだから」
「そうよね」
「ナイル川にいるね」
「このエジプトに全ての恵みをもたらす」
「私もエジプトの神だから」
それ故にというのだ。
「それでね」
「ナイル川に縁があるわね」
「そうよ」
まさにというのだ。
「私もね。けれど」
「それがね」
「蠍と誤解されるなんて」
「似ているからね」
「そのせいね」
「そうよね」
「とんだ誤解よ」
セクメトは困った顔で言った。
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