第一章
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澄まし灰
江戸時代後期の話である。
鴻池の山中という酒問屋の丁稚留吉はこの時怒っていた、些細な粗相で手代の茂三にしこたま怒られたからだ。
それでだ、彼は丁稚仲間の半助にその胡瓜の様な細長い顔を顰めさせて怒っていた。
「あそこまで怒ることないやろ」
「ああ、茂三さんな」
半助は丸い目のある丸い顔で応えた。
「あの人最近よお怒るな」
「それでさっきちょっと掃き忘れたらとこあったらな」
「物凄い怒られたんやな」
「そや、ほんま腹立つわ」
「あの人最近振られたんや」
半助は留吉にそれでと話した。
「付き合ってた人にな」
「そうなんか」
「それでな」
「ああしてか」
「最近機嫌悪うてな」
それでというのだ。
「ちょっとしたことでな」
「怒るんやな」
「そや」
そうなっているというのだ。
「かく言うわてもな」
「よお怒られるか」
「あの人にな」
「ほな今はあの人の傍におらんことやな」
「そや、それで怒られたらな」
「むしゃくしゃしたらか」
「まあどっかでな」
こう留吉に言うのだった。
「気晴らしするんやな」
「それがええか」
「わて等もちょっとしたことで怒られると癪やしな」
「それでやな」
「そこはな」
「気晴らしやな」
「それをすることや」
こうしたことを言うのだった、そしてだった。
二人は茂三から離れた、彼等は要領がよかったが別の丁稚の治郎吉小柄で要領が悪い彼はそうではなくだ。
よく茂三に怒られた、それである日特にこっぴどく怒られてだ。
むしゃくしゃしてどうでもよくなった、それでだった。
もうどうにでもなれと自棄になって酒造りの桶に灰を投げ入れた、灰桶のそれをそのまま放り込んだのだ。
そしてそのまま仕事に戻った、だが。
次の日店の主が酒桶を見るとだった。
「どないしたんや」
「どうしたんですか?」
「何かあったんですか?」
「見てみい」
たまたま傍にいた留吉と半助に話した。
「酒が澄んでるわ」
「あっ、ほんまですね」
「お酒って濁ってますけど」
「このお酒お水みたいですね」
「奇麗に澄んでます」
「何があったんや」
主は首を傾げさせて言った。
「ほんま、これは調べるか」
「そうしますか」
「ここは」
「どないしてこうなったかな」
こう言ってだった。
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