第二章
[8]前話
「大物主に話してもらった」
「夢の中で」
「だからな」
それでというのだ。
「この度はな」
「そうされますか」
「そうする」
こう言われてだった。
帝は実際にその者を探させて見付った彼を即座に社で父神を祭らせた、そうすると忽ちのうちにだった。
「病が収まりました」
「嘘の様に」
「そうなりました」
「そうなったな」
帝は微笑み周りに応えられた。
「実によかった」
「左様ですね」
「一時はどうなるかと思いましたが」
「それが収まりました」
「無事に」
「そしてだ」
帝はさらに言われた。
「この度何かあるそうだな」
「はい」
宮廷の酒造の長である高橋活日が進み出てきた、尾高やな顔立ちの老人である。
「実はあちらの米でお神酒を造りまして」
「それをか」
「帝に捧げたいのですが」
「そうしてくれるのだな」
「宜しいでしょうか」
「うむ、そしてよかったらだ」
帝は高橋の言葉を受けて穏やかな笑顔で言われた。
「歌を詠ってくれるか」
「ここで、ですか」
「そうしてくれるか」
こう言われるのだった。
「よいか」
「わかりました」
高橋は微笑んで頷いた、そして歌を詠った。
この神酒は わが神酒ならず
倭成す 大物主の醸みし神酒 幾久幾久
こう詠んだ、帝はその歌を聞いて言われた。
「見事である」
「そう言って頂けますか」
「その歌を残そう、そして」
「そのうえで」
「三輪の社はな」
そちらはというのだ。
「大物主を祭ると共に」
「そのうえで、ですか」
「酒もな」
「そちらもですか」
「大事にしていこう」
こう言われた、そしてだった。
以後三輪の大社は酒でも知られる様になった、そのうえで今に至る。神話の頃から伝わる古い話である。
三輪の酒 完
2024・3・14
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