第97話 深夜の誘惑
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はず……」
「良い音色だね……」
しばらくエステルの演奏を楽しんでいると曲が終わったので俺とフィーは拍手をする。
「エステル、凄く上手だったよ」
「うん、凄く素敵な曲だった」
「えっ、リィン君にフィー!?」
俺達に気が付いたエステルが驚きながら下に降りてきた。
「ちょっと!いたなら声をかけてよ!」
「ごめん、ちょうどハーモニカを吹いてたから声をかけられなかったんだ」
「でもお蔭で良いものが聞けたよ」
「まあそれならしょうがないか」
エステルは顔を赤くしてそう言った、でも直ぐに落ち着きを取り戻す。
「でも二人ともどうしたの?こんな深夜に出歩いたりして」
「それはお互い様でしょ。もしかしてヨシュアの事で悩んでる?」
「フィーには隠せないわよね……うん、そうなの」
フィーがヨシュアと言うとエステルは苦笑しながら頬を指で掻いた。
「あたし、前までは無理やりにでもヨシュアを連れ戻してやるって思っていたの。でもヨシュアの過去はあたしが想像していたものより凄く重いもので本当に連れ戻せるのかなって思っちゃったんだ」
「わたしも驚きを隠せなかった。ヨシュアも人の理不尽で大切な物を奪われた側の人間だったんだね」
「フィーはヨシュアみたいな人達を知ってるの?」
「うん、猟兵やってると戦場を多く見る機会が多いから自然とそういう人達も目にしてきたの。大体の人が何の罪もない一般人、貴族とか軍人とかそういった奴らが下らない理由で争いを起こしてそれに巻き込まれた」
「改めて聞くとひどい話ね、その人達が何をしたって言うのかしら」
フィーの話を聞いたエステルは憤りを隠せないといった表情を見せる。俺も多くの戦場を見てきたが大切な人、当たり前だった日常を突然奪われて泣く人達ばかりだった。
いつだって戦争を起こすのは立場の偉い人間だ、だが苦しむのは力無き一般市民だけ……
ヨシュアもエレボニアの将軍の身勝手な行動で家族も故郷も奪われた、その怒りは計り知れないだろう。
「……実はね、あたしヨシュアに結社に入ってほしいって誘われたの」
「えっ、そんなことが?」
「うん。それであたし、一回ヨシュアの手を取ろうと考えちゃって……それであたしはどうしたいのか分からなくなっちゃったんだ」
エステルは悲痛な表情でそう呟く、俺達に話すのもきっと怖かったはずだ。
俺はエステルを精神力の強い人だと思っていた、何があっても立ち直り前に進もうとする太陽のような存在だと……
だがエステルだって人間だ、耐えられない時も来るだろう。でも俺はエステルなら大丈夫だと何処かで思っていたのかもしれない。
「……エステルはどうしたいの?」
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