第1話 ボーイ・ミーツ・ガール・アゲイン
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それは全くの偶然だった。たまたま息抜きを兼ねて服や日用品を、買いにラゾーナ川崎プラザに来ていただけだったのに。
(河原木…何でお前がここに)
プラザの中ほどにあるルーファ広場。2階に上がると広場を見渡す形になる。白石瑞貴は驚愕のあまり眼下に広がる目の前の光景に見入っていた。ステージに立ちライブをしているボーカル、ギター、ドラムの3人の女性。その内の1人は見間違えるはずもない。
河原木桃香。高校の同級生だ。瑞貴にとって桃香は初恋であったが、彼は彼女にとって1人のクラスメイトに過ぎず接点がなかったため彼女に気持ちを伝えられなかった。悶々とした学校生活を送る中、彼女は高校を中退。クラスメイトの女子4人組で上京しバンド、ダイヤモンドダストを結成。想いを伝えることは叶わなかったが、ボーカルである桃香の歌声がいつも瑞貴の背中を押してくれた。彼女の歌を愛し、またダイヤモンドダストのファンとして活動を応援していた。
その後の展開は衝撃的だった。桃華のダイヤモンドダスト脱退。新ボーカルのヒナを加えて再スタートに舵を切った。ボーカルの変更には賛否両論がある。音楽性やビジュアルがロックなものからアイドルテイストになり人気は急上昇。ただ中には前ボーカルのほうが良かったとの声もある。瑞貴もその1人であった。桃香のファンである彼は、彼女の動向を陰ながら気にかけていた。
「そっか。新しい居場所を見つけたんだな、お前は」
頬を熱いものが伝う。気づけば瑞貴は人目も憚らず涙を流していた。自分の思い人が新しい場所で音楽を続けてくれていた。安堵や感動、その他色々な感情が荒波のように押し寄せる。
「大丈夫ですか?」
そう声をかけたハンカチを差し出す長身の異国風女性。その斜め後ろには訝しんだ顔をした、お嬢様風の少女がいた。
「悪い、何でもないんだ…凄い偶然でさ。また会えると思ってなかったから」
「そうですか。話してみてはいかがでしょう。このライブが終わってからでも遅くはないはずですよ」
「そう、だよな…話してみるよ。ありがとう、えっと…」
瑞貴はハンカチで涙を拭いながら彼女たちに名前を尋ねる。異国風女性の名前はルパ。南アジアの出身らしい。すらりとした長身に端正な顔立ち。やや褐色の肌。同性にも異性にも魅力的に映りそうだ。お嬢様風の少女は海老塚智。顔には幼なさが漂うが綺麗系の顔立ち。吊り目で細長い眉毛は、あまり高くない上背も相まってハリネズミのような雰囲気を感じさせる。可愛いらしい見た目だが棘がある。2人ともライブをしているバンド、新川崎(仮)をたまたま見ていたらしい。
「ふん。わ、私は違うけどね」
「もう、智ちゃんは素直じゃないですね」
「はは。俺は白石瑞貴。河原木…あのバンドのギタリストとは高校時代のクラスメイトなんだ」
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