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冥王来訪
第三部 1979年
冷戦の陰翳
険しい道
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ったのだ。

 
 広大なフリードリヒ浴場は、15の施設に分かれていてた。
これは、1877年の開園当時からの伝統で、およそ2時間ほどかけて移動するように設定されていた。
 まず冷水のシャワーを5分間浴びた後、54度と68度の熱気で満たされた温室でそれぞれ5分間休憩する。
温水のシャワーを1分間浴びた後、8分間の石鹸とブラシによる洗浄を受ける。
 ブラシの洗浄は、三助(さんすけ)が待機しており、男女別の入浴の日以外は、男の三助だった。
その後、45度と48度のサウナをそれぞれ5分ずつ経た後、36度の温泉に10分間浸かった。
 36度の温泉は、東洋人の我々からすると非常にぬるく感じる温度ではある。
だが欧州では、28度から36度の低い水温の温泉が一般的だった。
一説には寒さに強い白人種は、汗腺の数が黄色人種に比して少なく、暑さに弱いことが原因とされている。
基礎体温が高く、筋肉量の多い彼等からしてみれば、日本の温泉は熱く入っていられないという。
この温泉の水温の違いは、文化的な背景や人種の差異が大きかった。
 36度の温泉の後は、34度の噴出浴(ジャグジーバス)に15分間浸る。
そして、その後はフリードリヒ浴場の目玉である28度の湧水浴場に移るのであった。
 
 テオドールは、更衣室で分かれたリィズと遊水浴場で会うことになっていた。
 遊水浴場は、建物の中央にあり、数百畳ほど。
照明は、天蓋の隙間のガラスから入ってくる天然光のおかげで、はっきり周りが見えるほど明るかった。
 奥の方に、大理石で作られた古代ギリシア風の浴槽がある。
数十人は入れそうな大きさで、既に湯が満ち、薄っすらと湯気が立っている。
 今自分は、古代ローマの大浴場にいる……
ふっと、現実世界から浮遊したような奇妙な感覚に、テオドールは陥った。
「思ったより、早かったね」
 気づくと、そこにはリィズがいた。
一糸まとわぬ姿は、まるでモデルに細くて、均整の取れた抜群のプロポーション。
長年一緒に暮らしてきたテオドールでさえ、どきりとしてしまうような、素晴らしい体だ。
 義妹は湯船に腰かけて、こちらを見ている。
赤裸のテオドールを前にして、相変わらず、全裸の肢体を隠そうともしない。
それはまるで、アキダリウスの泉に佇む、愛の女神ヴェーヌスを思い浮かべさせる。
 時間帯のせいだろうか、義妹の他に誰もいない。
偶然とはいえ、貸し切りの状態だった。
「早く入ろうよ」
 そういって、テオドールとリィズが湯船に身を浸した。
リィズと向き合う形となったテオドールは、頬の赤みが増してゆく。 
 湯の温度は28度と、それほど熱くない。
体が温まったという、言い訳が付かない赤面だった。
 リィズは、背泳ぎする形で、テオドールの傍に近寄ってくる
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