第一章
[2]次話
男声の彼女
サラリーマンの近田健二の彼女今坂敦子は切れ長の二重の強い光を放つ目に黒い濃く太い眉にきりっとした赤い唇を持っている、黒く長い波打った髪の毛で高い鼻に一六二程の背でメリハリの利いたスタイルをしている。
だが彼女には一つ悩みがあり。
「今日もお仕事の時電話でね」
「間違えられたんだ」
「男の人にね」
近田に低い声で話した、声が低く男声なのだ。
「これがね」
「声域で言うとメゾソプラノかな」
「アルトよ」
この域だとだ、細面で明るい顔立ちで背が高く痩せていて黒い髪の毛をショートにしている彼に同居している部屋の中で話した。
「私はね」
「メゾソプラノより下だね」
「メゾソプラノなら」
その声域ならというのだった。
「かなり低い」
「ドラマティコだね」
「イタリア語でね」
「歌劇だとかなり劇的な役が多いね」
「そうね、そしてね」
敦子はさらに話した。
「さらに声色がね」
「男の人みたいで」
「そうでね」
「男の人に間違えられるんだね」
「ええ、今日もだったのよ」
「それが嫌だね」
「どうしたものか」
苦い顔で話した。
「本当にね」
「僕は気にしないけれど」
近田は実際に気にしないのでこう言った。
「それでもなんだ」
「私としてはね」
「気にしていて」
「女の人の声でありたかったわ」
こう言ったのだった。
「本当にね」
「そうなんだね」
「ええ、声変えられないかしら」
「それ難しいみたいだよ」
近田はそうだと答えた。
「これがね」
「そうなのね」
「どうもね」
「難しいのね」
「だから大抵の人はそのままだよ」
声はというのだ。
「変えないよ」
「そうした努力しないのね」
「そうだよ、それで僕も気にしていないし」
「声もそれぞれね」
「その声が役に立つこともあるよ」
「あるかしら」
「そんな時もあるよ」
敦子に微笑んで話した。
「きっとね。だからね」
「気にしないことね」
「そうだよ」
こう話した、だが敦子は気にしていて。
自分の声がどうにかならないかと思っていた、だが。
ある日だ、友人と一緒にいる時にだ。
「別れた元カレがなの」
「そうなの、よりを戻そうってね」
友人の橋本千佳、黒髪をショートにした大人しい顔立ちの中背ですらりとしたスタイルの彼女は自宅で敦子に話した。
「言ってきて」
「うちにも来てるのね」
「そうなのよ」
「それは困ったわね」
「彼が浮気して別れたのに」
それでもというのだ。
「そう言って来るから」
「今日も来るとか?」
「来るかも知れないわ」
「だったらね」
ここで敦子は閃いて言った。
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