第一章
[2]次話
五大院宗重にはならない
取引先に行く途中にだ、サラリーマンの沼田勝英は妊婦と思われるお腹の大きな人が苦しんでいるのを見た、それですぐに助けようとしたが。
助けると取引先の人と会う約束の時間に間に合わないかも知れない、それで報告、連絡、相談に習ってだ。
上司で部長の手塚亨に携帯でどうすべきか尋ねた、すると手塚はすぐに言った。
「決まってるだろ、その人を助けるんだ」
「取引先には」
「俺が言っておく」
手塚は携帯の向こうの沼田細面で色白で優しい顔立ちの茸の様な黒髪の中肉中背の彼に告げた。手塚は大柄で四角い顔で気の強そうな繭の太い顔で角刈りである。
「人を助けて遅れるとな」
「すいません」
「誤ることか」
半分怒った様な声だった。
「君は報告した、そしてそこで妊婦さんを見捨てるならな」
「駄目ですか」
「人としてな、だからまずはだ」
「妊婦さんをですね」
「付き添って救急車を呼ぶんだ、いいな」
「わかりました」
手塚の言葉に頷いてだった。
実際に沼田は女性に付き添い一一九番に連絡した、その時に救急隊員に名刺も渡した。何かあった時の連絡先としてだ。
そして取引先に行くと手塚から連絡を受けていてだった。
わかってくれていて商談は問題なく行われた、そしてだった。
会社に帰り手塚に細かいことを報告するとだ、彼に言われた。
「太平記を読んだことがあるか」
「軍記ものの」
「そうだ、そうでなければ週刊少年ジャンプを読んでいるか」
「はい、太平記はないですが」
読んだことはとだ、沼田は答えた。
「ジャンプは読んでいます」
「逃げ上手の若君という漫画があるな」
「部長も読んでますか」
「サンデーもな」
「僕マガジンもです」
「そうか、それでジャンプのな」
「逃げ上手の若君ですか」
「あの漫画は太平記を基にしているところが大きいが」
その軍記ものがというのだ。
「五大院宗重という奴が出て来るな」
「最初の頃出てましたね」
沼田は読んだその記憶を辿りつつ答えた。
「そういえば」
「主君の小さな子を裏切って敵に突き出したな」
「しかも散々殴って」
「太平記でも裏切ってな」
そうしてというのだ。
「敵に突き出した」
「殴ってなくても」
「そしてその子は処刑されたな」
「北条邦時でしたね」
「最低な奴だったな」
五大院宗重、彼はというのだ。
「本当に」
「はい、とんでもない奴でした」
「太平記でもあの漫画でも不忠者と言われてだ」
幼い主君を裏切り処刑させただ。
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