第七百六十四話 悪より嫌なものその十一
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「世界を知らなかったのですね」
「井戸の中の蛙といいますが」
「そうした人でしたか」
「その蛙は井戸の中もです」
狭いその場所もというのだ。
「碌に知らないものです」
「その人もですね」
「はい」
まさにというのだ。
「その人は」
「そうですね」
「ですから」
それでというのだ。
「餓鬼になりました、社会という大海を知らず」
「家庭という井戸もですね」
「碌に知りませんでした、ですから」
そうだったからだというのだ。
「奥さんにもです」
「逃げられたんですね」
「そうなりました」
「離婚されたんですね」
「思いやりなぞ備えなかったので」
そうだったからだというのだ。
「ですから」
「離婚ですね」
「それに至ったのですね」
「普通働かない時点で」
「離婚になりますね」
「その頃の日本でも」
「はい、ですが」
そうであるがというのだ。
「奥さんはです」
「働かなくても許せる」
「そのことはですね」
「そうでしたが」
「かなり好条件ですが」
「働かなくても離婚しないのは」
「しかし」
それでもというのだ。
「あまりにも偉そうで思いやりもないので」
「離婚ですね」
「そうであったので」
「感謝どころかです」
それこそというのだ。
「褒めたり認めたり」
「そうしたことはなく」
「否定ばかりですか」
「自分以外を肯定するなぞ」
「ない」
「あくまで自分だけですね」
「そうであるので」
それ故にというのだ。
「逃げられました」
「そうなったのですね」
「今お話している人は」
「そしてそのことで何も思わず」
「反省しなかったのですね」
「反省とは全く無縁で」
そうした輩でというのだ、世の中残念ながら何があっても反省せずそこから何も考えない輩もいるのだ。
「それで、です」
「どんどん悪くなり」
「餓鬼になったのですね」
「まだ離婚された時点ではです」
そこではというのだ。
「人間だったのですが」
「それがですね」
「離婚されてからですね」
「日増しにです」
そう言っていいレベルでというのだ。
「堕ちていき」
「そしてですね」
「人の底を抜き」
「遂にですね」
「餓鬼になったのですね」
「そうです、薔薇を観ても薔薇を観て奇麗と思わず」
そうであってというのだ。
「葉の端の傷を得意気に批判するなら」
「それならですね」
「何も得られないですね」
「棘を見てもいいですが」
「そんな部分だけ見ては」
「よくありません、肝心の部分を見て」
その対象のというのだ。
「そこからいいものを感じ取ってこそです」
「人はよくなりますね」
「左様ですね」
「そうなのです」
こう言うのだった
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