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刺青爺さん
第二章

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「賭場の手伝いもしてたわ」
「そやったか」
「それで背中にや」
「刺青あるんか」
「実はな、わしが入って暫くして組自体が足を洗って」
 そうしてというのだ。
「カタギになったけどな」
「ひい祖父ちゃんの刺青はか」
「そのままや、それでや」
「今もか」
「わしはやんちゃで柄の悪い高校通っててな」
「鳶職になるんしいてもか」
「そうした会社、組に入ったんや」
「そやったか」
「しかし足を洗ってな」 
 会社、組自体がというのだ。
「それでや」
「そのうえでか」
「カタギになった、やっぱりカタギの暮らしの方がな」
「ええか」
「そこでわしも会社も徐々に変わってな」 
 そうしてというのだ。
「平和にやる様になってな」
「穏やかになったんか」
「ああ、よくわしは穏やかやええ人やと言われるが」
「最初はちゃうか」
「刺青ある様な奴やったんや」
「若い頃はか」
「七十年位前はな、人は徐々にでも変わるんや」 
 そうだというのだ。
「そのことは覚えておくんや」
「わかったわ、ひいお祖父ちゃんの背中には刺青があって」
「若い頃はやんちゃでな」
「徐々にやな」
「変っていってな」
「今みたいにやな」
「なったんや」
 こう言うのだった、そしてだった。
 曾孫に背中を見せた、その背中には赤と白の鯉と青い模様があった。その刺青を見せつつさらに話した。
「まだ十九の頃に彫ってな」
「ほんま七十年近く前やな」
「知ってるのはひいお祖母ちゃんだけやった」
「そやってんな」
「しかし今はま」
「ええお爺ちゃんって言われるな」
「有り難いことにな、そうなったんは」 
 まさにというのだ。
「徐々にや」
「会社がヤクザ屋さんやなくなって」
「カタギになって真っ当に働く様になってな」
「ひいお祖父ちゃんもそうなって」
「それでや、あの時組が足を洗ってくれて」
 そうしてくれてというのだ。
「ほんまよかったわ」
「そう言うねんな」
「心からな」
 曾孫ににこりと笑って答えた、そうしてだった。
 その刺青を服の中に戻した、そのうえでだった。
 曾孫に一緒に何か食べに行こうと誘った、それで行ったのは天下茶屋の昔ながらのラーメン屋だった。弓岡はそこでも仏の様なお爺さんと言われた、曾孫はそんな彼と一緒にいて確かにと頷いたのだった。


刺青爺さん   完


                   2024・8・18
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