第65話
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―――〈ヤマト〉・個別医療室。
トクトクと、第七空間騎兵隊を率いる男―――斎藤と呼ばれる男は酒を鉄製の椀へと注ぐ。ベッドテーブルに並べられた椀は2つ存在しており、それは彼が用意したもの。
「せっかくだから、親父さんと飲みたくてな」
一つは自分の分で、もう一つは尊敬してやまない”親父さん”の分だった。
「俺は怪我人だぞ?」
斎藤が”親父さん”と呼ぶ男の名―――土方竜は、苦笑いを浮かべた。空間騎兵隊の斉藤始からは、土方が月面基地で救出した縁から「親父さん」と敬意の念を込めて呼ばれている。
ベッドに横たわる土方は、上半身を起こす。破壊された第十一番惑星の司令部で重い怪我をし、斎藤以下の第七空間騎兵隊が救助されてより、この医療室にいたのだ。
回復し今では輸血や輸液などは外されているものの、寝間着の下は包帯だらけ。彼が今もこの医療室にいるのは、名医である佐渡先生より「静養なさってください」と言い渡されいるからである。
そんな土方は、自分の分が注がれている椀を視て悟る。
「別れの盃か」
斎藤は土方の分を注ぎ終わると、酒瓶を脇に置いた。
「別れなきゃならねぇ。その理由が、分からなくともな」
斎藤はベッドテーブルに置いた2つの椀―――盃を取ると、その一つを土方へと差し出す。無言でそれを受け取ったのを確認した斎藤は、強い口調で告げる。
「今の〈ヤマト〉は腑抜けだ。敵と戦おうっていう気迫が無いぜ。だったら俺は地球に戻って、戦える艦に乗せてもらう。…親父さんも、同じ気持ちじゃねぇのか?」
斎藤の言葉を黙って聞いていた土方は、手元の盃を引き寄せた。土方は無言で天井を見上げ、過去へと想いを馳せる。〈ヤマト〉がイスカンダルへ向け出航する数時間前、最後に親友の沖田と言葉を交わした時の事だ。
……
…
もう、3年以上もの前の事になる。あの日、司令部に存在する沖田の私室を訪ねた。沖田は家族を失ってからずっと自宅ではなく、司令部内で割り当てられた部屋で過ごしてきた。
第二次火星沖海戦の英雄―――”軍神”とまで讃えられた男だ。人類が地下都市での生活を余儀なくされているとはいえ、それ相応の待遇があるのは当然である。それは、誰もがそう考えていた事だ。軍人でもなく、だ。
だが、沖田は頑なに固辞した。
『司令部で寝起きしていれば、突然の事態にも対応出来る。それに、此処は落ち着く』
申し出が来た際は、これを必ず言っていたのだ。
自分が訪れた際、沖田は〈ヤマト〉へ持ち込む手荷物の整理をしていた。訪れた時には終えたばかりのようだったが、それでも振り向こうともしなかった。―――気配の察知は俺よりも優れているのに、だ。
「用件
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