暁 〜小説投稿サイト〜
現実世界は理不尽に満ちている!
第55話「ギルド長の1日」
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いた。

 「……」
 
 ほわほわと湯立つその見た目に、彼女はそれを口の中に運び入れた。―――そして、衝撃が訪れる。

 「美味い!」

 スヴェートの瞳に、爛々と星が瞬いた。舌に触れる脂の質は、甘く滑らかだ。噛めば汁が溢れ、肉の力強い味が主張してくる。そして肉に合うこの香辛料の効いたソースがまた憎い。辛味はあくまでも肉の旨味を引き立たせる一助に過ぎない。スパイスの独特な風味は肉の香りを損なわない程度に抑えられ、しかし舌に絡むこの刺激が食欲を一層に煽ってくる。

 彼女は、少女の様な無垢な笑みを見せた。不純物や添加物の混じらない、満点の笑顔を。

 「美味い」

 控えているメイドは、それを聞いていた。スヴェートは、付け合わせの人参にもフォークを伸ばす。甘い、これも甘くて美味しい。ソースにもよく合う。パンはどうだ、ひと口千切るとまるで綿の様に柔らかい。食むと仄かに甘く、小麦の豊かな香りが広がっていく。

 「……」

 スヴェートは、目頭の奥に熱を帯びていくのを感じていた。こういった美食を食べ慣れているとはいえ、溢れ出る感動を抑えきれないのは仕方がないというもの。彼女は、赤い葡萄酒に手を伸ばした。この渋みとアルコール感は、慣れたものだ。

 ワイングラスを傾けるスヴェートは、その後も品よく食べ続けた。

 ………
 ……
 …

 「ふぅ、今日も美味であったぞ」

 「ありがとうございます、スヴェート様」

 お辞儀するメイド。スヴェートは食後の美酒で口を湿らせると、浅く息を吐いた。今日も美味しすぎた。美味しすぎて、食事の時間は一瞬で終わったように思えてしまった。皿やパン籠の上に食べ残しなど一切ない。彼女は綺麗に平らげて、充足感に身を委ねていた。

 ふと、今日も思うのだ。この幸せを亡き姉にも共有したい、と。

 「まぁ、この世にいない姉がいないのが悪いのだが」

 あり得ない幻影を瞳に映して、スヴェートは細く笑んだ。彼女はごちそうさまと手を合わせ席を立ち、出口へと向かった。

 食堂を後にしたスヴェートは浴場におり、彼女は自身の身体をメイドに洗わせていた。その後はお風呂にしばらく入り、壁面のスクリーンに映し出されている富士山を眺めた。

 お風呂から上がり浴場を出ると、待機していた2体のメイドがスヴェートの髪と身体を拭く。拭いた後はドライヤーで髪を乾かし髪の毛を櫛で梳かした。

 その後、寝間着姿となったスヴェートは寝室へと向かった。

 時刻は22:00。消灯の時間となった彼女はベットに入るや布団を被り、眠りについた。

 これが、ギルド長スヴェートの1日である。
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