第四章
37.失われた呪文
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「フォルよ。覚えてきたギラの呪文を唱えてみよ」
「はい! ギラ!」
「ふむ、なるほど」
「どうですか?」
「そうだな。これほど基本に忠実で素直なギラを儂は見たことがない。宝石のごとく美しい火球だ。ハーゴン様が直々に教えるとこうなるのか」
「ありがとうございます」
「ただ威力がなさそうなことは気になる」
「はい! 呪文の才能はないようだ、とハーゴン様はおっしゃられてました!」
「うれしそうに言われても困る。大変だっただろうな、ハーゴン様も」
「大変だとおっしゃってました! 一日中、付きっきりでご指導をいただいてしまいました」
「そうか。てっきり、ついでに何か仕事を頼まれてこんな時間になったのかと思っていた。お茶くみがギラを覚えるためだけにハーゴン様を終日拘束。これは誰にも言えぬぞ」
「はい。ハゼリオ様以外には内緒にするようにと言われました」
「それがよい。まあ万一漏れたとしても、ハーゴン様がお前に対して怒ることはないと思うが……。しかし、呪文の才能がないということは、魔力にも乏しいということだろうか?」
「はい! あまり感じない、と言われました」
「だから、うれしそうに言うでない」
「やはり教団で一番魔力があるのはハーゴン様なのですか?」
「そのとおり。ハーゴン様の魔力は無尽蔵だ。教団はあのおかたの魔力でさまざまなことを実現してきた。この大神殿にしても、あのかたの魔力がなければ完成させることはかなわなかっただろう」
「独特で素敵な建物ですよね」
「そうだな。神殿らしからぬ塔型。しかも二連塔を上階で繋ぎ合わせた世界に二つとない形状だ。余計な装飾もあえて排している。この建物に美を感じることができるお前の感覚は間違っていない。新たな価値の創造、革命的な神殿と言えよう。
この何もないロンダルキアの地で、既存の概念にとらわれないハーゴン様が、ゼロから創り出したからこそ実現した。素晴らしいことだ」
「ハーゴン様の破壊の教えにもつながりそうですか?」
「つながるな。有形でも無形でも、モノを破壊してゼロにすることは、創造の障壁を取り除くことを意味する。なかなかよい気づきだ」
「ありがとうございます」
「ただ、破壊という言葉の力は強すぎるきらいがある。お前は大丈夫だろうが、未来には自らに都合のよい解釈をする信者や、破壊と破滅を混同する信者などもあらわれるかもしれぬ。そうなったときにどうするか――」
− − −
時間が、止まっていた。
サマルトリアの王子・カインは剣を構えたまま動かず。
自称キラーマシン使い・タクトも動かず。
碧い瞳と黒い瞳が、じっと見つめ合う。
どれくらい時間が過ぎただろう。
やがてサマルトリアの王子の肩から、力が抜けた。
「嘘
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