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白澤
第三章

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 二人は神社の中に入った、そしてお賽銭を入れて手を合わせようと足を進めると二人の目の前にだった。
 何と金色と白のみらびやかな着物と袴を着た猿顔の愛嬌のある感じのちょん髷の老人に白い人顔に目が脇の下にある獣がいた、葵はその彼等を見て言った。
「ええと、あのお侍さんって」
「太閤さんよね」
「それであの人面犬の大きいみたいなのは」
「何かしら」
 彼等は賽銭箱の前で座って話をしている、実にくつろいでいる。
「普通の生きものじゃないわね」
「どう見てもね」
「妖怪かしら」
「そうよね」
「ん?参拝に来たのか」
 老人がここで二人に気付いた。
「そうなのか」
「そうだね」
 今度は獣が言った。
「この子達は」
「そうじゃな、これまた可愛い子達じゃ」
「ちょっとちょっと、そこでまた女好き出す?」
 獣は老人に笑って言った。
「全く変わらないねえ」
「やはりおなごは好きじゃ」
 老人は悪びれず明るく笑って返した。
「わしはな」
「四百年以上変わらないね」
「そうじゃ、わしはな」
「あの、貴方まさか」
 葵は老人、六十過ぎ位の彼に問うた。
「太閤さんですか?」
「うむ、羽柴藤吉郎じゃ」
 老人は笑顔で答えた。
「本姓と諱では豊臣秀吉という」
「やっぱりそうですか」
「全く、今の子孫達は不思議じゃ」
 秀吉は腕を組んでこうも言った。
「人の名を苗字と諱を合わせて呼ぶからのう」
「そうなんだよね」
 獣も言ってきた。
「これが」
「上様だとな」
「織田三郎さんと呼ばないしね」
「あの様に呼ばれるとはな」
「今は昔と違うね」
「全くじゃ」
「あっ、そうですね」
 ここで幸恵が言ってきた。
「昔は本姓がありましたね」
「源平藤橘にな」
 秀吉は幸恵にも話した。
「それでわしのじゃ」
「豊臣ですね」
「本来は呼ばぬ」
 本姓ではというのだ。
「それが礼儀であった」
「当時はそうでしたね」
「わしが人であった頃はな」
「そうでしたね」
「そして名前だが」
 秀吉はこちらの話もした。
「これもな」
「諱がありましたね」
「わしの秀吉という名はな」
「諱ですね」
「普通は呼ばれぬ」
「そうですね」
「だからわしもな」 
 秀吉自身もというのだ。
「名は藤吉郎とな」
「呼ばれていましたね」
「それで羽柴藤吉郎とな」 
 その様にというのだ。
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