暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪 補遺集
第二部 1978年
原作キャラクター編
親子盃
[5/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
合法戦術を取ろうと、テロによって社会転覆を狙い、政権簒奪を狙う非合法戦術であっても、変わらなかった。
立会人を呼んで、入党届にサインをすれば済む場合もあれば、複数の党地方支部の幹部たちを前にして、マルクスの資本論に手を置いて、忠誠の宣誓の儀式を行わなくてはならない場合もあった。
任侠組織や秘密結社と同じで、共産党の入党の際は推薦人が必要だった。
 議長は、ユルゲンの名前を、党の名簿に載せれば、留学させる予定の米国で、差別を受けるのではないか。
また、西ドイツとの合邦が成立した際、一切公職に就けなくなる、可能性が高い。
 そんな(おそ)れから、公的記録にも残らない、盃事(さかずきごと)をすることにしたのだ。
――独裁国家の指導者と実力者が、養子や親子に擬制(ぎせい)した関係を持つのは珍しくない。卑近な例で言えば、金正日とオランダ国籍の朝鮮人楊斌の養子縁組の例などであろう――


 マルクス、エンゲルスの肖像画の掛けられた広間に、祭壇が用意され、酒と供物(くもつ)が並べられる。
社会主義統一党の幹部達や個人的に親しい政治家、軍関係者が、両脇に並べられた椅子に座り、儀式の推移を見守る。
 ワインの注がれたガラス製の酒杯が、銀の盆に載せられて、儀式の立会人の前に差し出され、
「立会人に申し上げます。この盃は、親子の契りを結ぶ(さかずき)に御座います。お目通しを願います」
「結構です」
「よろしいですか」と銀の盆を高く掲げ、祭壇の前に座る議長の面前に運ぶ。
「このお(さかずき)は、親子の(ちぎ)りを結ぶ盃に御座います。
気持ちの許す限り、お飲みになり、お下げください」
議長は神妙な面持ちになると、(うやうや)しく酒杯を取り、半分ほど飲む。
そして盃は、白いタキシードを着た給仕が、媒酌人(ばいしゃくにん)の所まで下げて言った。

 緊張するユルゲンの元に差し添えられた酒杯が差し出され、
「え、子となられます、同志ユルゲン・ベルンハルトに申し上げます。
紳士の(ちぎ)りを結ぶ意義高いお盃です。この盃を飲み干すと同時に、親子の強い絆が結ばれます。
その盃を飲み干しまして、懐中しっかりと、お納めを願います」
儀式の媒酌人が、
「どうぞ」と、声を掛けると、一気に酒を(あお)り、空になった酒杯を布に包むと、懐に入れた。
司会役は、ユルゲンの方に向かって、
「よろしくお願いしますと、力強くお願いいたします」
その言葉を聞いて、議長の正面に立ったユルゲンは、深々と頭を下げ、
「よろしくお願いします」と、力強く答える。
一通り、ユルゲンの様子を見届けた媒酌人は、
「無事、盃事(さかずきごと)が終わりましたことを衷心(ちゅうしん)より御礼(おんれい)申し上げます。
全国|津々浦々《つ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ