暁 〜小説投稿サイト〜
冥王来訪 補遺集
第二部 1978年
原作キャラクター編
親子盃
[3/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
立てた帰国船に乗せるのが、一番安全かと存じますが……」
男は、すっとユルゲンに氷の入ったグラスを差し出す。
「やはり……、そうなるのかね」
ユルゲンは、レモネードの瓶の栓を開けるとゆっくりとグラスに注ぐ。
「現状の我が国の立場では、我々が生き残る道は選択肢が多い訳ではありませんから……」
男は、ふと冷笑を漏らすと、ユルゲンに皮肉交じりの言葉をかけた。
「君もすっかり、青年将校らしい口の利き方が出来る様になったな……」

 男は酔いを醒ます為に、レモネードを一気に呷る。
静かにグラスを置いた後、ユルゲンに訊ねた。
「話は変わるが、アイリスディーナの今後は如何思い描いている……」
奥の方より真新しいグラスを取ると、アイスペールから氷を数個トングで摘まみ、グラスに入れる。
「これは、俺からの提案だ……お前さんとアイリスを俺の養子にしたい。(いや)なら、断っても良い」
男からの提案は、ユルゲンの頭の中を真っ白にさせた。
口約束だけの関係ではなく、息子として取り扱ってくれるという提案に衝撃を受けた。
 グラスをユルゲンの方に差し出すと、男は、ルジェのクレーム・ド・カシスを注いだ。
ユルゲンは、自分が好きな酒の事まで調べていた男の気遣いに心を打たれる。
「ど、どうして、俺を……、これほどまでに特別扱いなさって下さるのですか」
いつの間にか、頬を濡らしていることに驚いた。
(ルジェは、1841年創業のフランスの酒造メーカー。
クレーム・ド・カシスは、ルジェ社のカシス・リキュールで、看板商品である)


 男は、30年物のブランデーをグラスに注いだ後、静かに杯を傾けた。
そっと、グラスを置いた後、滔々(とうとう)と語り始めた。
「俺には、前の妻との間に、生きていれば、お前さんと同じくらいの(せがれ)が居てな……。
一目見た時から、知らぬ間に、死んだ倅の姿に重ね合わせている自分がいた……。
どうも段々と接している間に、ユルゲン、お前さんの事を他人とは思えなくなってきた」

声を震わせるユルゲンに、男は(さと)すように語り掛ける。
「アイリスディーナの先々を考えれば、俺の養子になる事も悪くはあるまい。
アイリスディーナは並の女よりも(さと)く、そして純粋だ……。
もし君に何かがあった時の為だ。
一人……、この社会で生きる強さを求めるのは、18歳の少女に対しては酷であろう」
「確かに優しい娘ですから……」
「俺が後ろ盾になるから、盤石(ばんじゃく)な相手に嫁がせてやりたい……」

 ユルゲンは、男の言葉の端々から政略結婚の意図をくみ取った。
自身が一介の戦術機乗りであったならば、激しく抵抗し拒否したであろう。
しかし今は、支配階層の姻族(いんぞく)
義父アベールや上司シュトラハ
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ