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星々の世界に生まれて〜銀河英雄伝説異伝〜
第九十三話 本音と建前
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しゃること」
ウィンザーの冷笑は華やかだった。それに反論するのも無意味と思ったのだろう、レベロは背もたれに思い切り身を預けると会議室の天井を見上げている。それを見たホワン爺さんが苦笑しながら嗜めた。
「頼むから短気を起こしなさんなよ」
 彼は呟き、投票用のボタンに丸っこい指を伸ばした。レベロだけではなく議長以下の閣僚達が可否を決めるボタンに手を伸ばす。俺達軍人には投票権はない。この場では軍人はあくまでも助言者に過ぎない。
 
 賛成六、反対三、棄権二。有効投票数の三分の二以上が賛成票によって占められ、ここに帝国領内への侵攻が決定された。だが票決の結果が評議員たちを驚愕させた。出兵が決定されたことがではなく、三票の反対票のうち一票が、トリューニヒトだった事だ。たとえ反対だったとしても多数につくだろう、賛成した閣僚達はそう思っていた筈だ。現に一番驚いているのはイカれた主張をしていたウインザーだった。トリューニヒトは普段から帝国打倒を叫ぶ強硬派とみられていたからだ。レベロやホアンも少なからず驚いていた顔をしている。
「私は愛国者だ。だが愛国者だからといって無闇に戦うべきだとは思ってはいない。私がこの出兵に反対であったことを銘記しておいていただこう」
 それが声無き疑問の声に対する、トリューニヒトの答えだった…くそ、少しだけトリューニヒトがカッコ良く見えちまったじゃないか!ヤンさんにも見せてあげたかったなあ…とそれは置いといて…最高幕僚会議からの提案による出兵案は採用された、という事はこの出兵案は最高評議会議長の責任において実行される事になる。それに反対した三人はサンフォード議長と対決する姿勢を見せた、という事だ。選挙後が見物だな…。

 議長以下の閣僚達が出て行くと、軍人だけが会議室に残された。当然ながら三提督もこの場に残っている。三人の顔には憔悴という二文字が彫られてあった。
「ムーア提督」
「何でしょうか、副司令長官」
「折角皆さん三人が建前を取り繕ったのに、議長が台無しにしてしまいましたね。あそこまでハッキリと政権維持の為と言われると、我々としてはぐうの音も出ない。そうではありませんか」
「申し訳ありません。我々はただ…」
「いいのです、作戦の考え方としては正しいのですから。ただ、諸問題がある…正直に答えて下さい、皆さんは自らの自己実現の為に出兵案を議長に持ち込んだ、そうですね?」
「はい、その通りであります」
「軍の方針がアムリッツァ長期持久という事は認識していますよね?出兵案がそれに反する事も」
「はい」
意外とムーアは素直だった。まあ議長が本音を言ってしまったのだ、これ以上恥の上塗りをしても仕方ないと思っているのだろう。
「分かりました。今後は本部長やトリューニヒト委員長の同意なく恣意的に動くのは止めて下さい。副司
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