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星々の世界に生まれて〜銀河英雄伝説異伝〜
第九十三話 本音と建前
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 ウィンザーは四〇代前半の美魔女、といってもおかしくない容姿の持ち主でしかもその声はとても耳に心地よい…まあ俺のタイプではないけども…だけど、全うな人間であれば彼女の発言こそ危険に感じるだろう、ウィンザーの方こそ安っぽいヒロイズムに足首をつかまれているのは明白だ。
 レベロがふたたび反論しようとしたとき、それまで沈黙していた議長サンフォードが初めて発言した。
ええと、ここに資料がある。みんな端末の画面を見てくれんか」
 全員がいささか驚いて、とかく影の薄いと言われる議長に視線を集中させ、言われた通り端末に目をやった……おいおい、俺達軍人もいる前でこれを言うのか?
「こいつはわが評議会に対する一般市民の支持率だ。けっして良くはないな」
 約四十パーセントいう数値は、列席者の予想と大きく違ってはいなかった。ボーデンでの軍の醜態のせいもあったろうが、ウィンザー夫人の前任者が、不名誉な贈収賄事件で失脚してから何日もたってはいなかったからだ。
「一方、こちらが不支持率だ」
 五十六パーセントいう数値に、吐息が洩れた。予想外のことではないが、やはり落胆せずにはいられない。
 議長は一同の反応を見ながら続けた。
「このままでは十二月の選挙に勝つことはおぼつかん。この政権は終わりを迎えるだろう。それを頭に入れた上でこの資料を見て貰いたい」
 議長は声を低めた。意識してか否かは判断しがたいところだったが、聞く者の注意をひときわひく効果は大きかった。
「シミュレーションの結果、十一月までに帝国に対して画期的な軍事上の勝利を収めれば、支持率は最低でも一五パーセント上昇することが、ほぼ確実なのだ」
 軽いざわめきが生じた。流石に三提督も呆れている。議長を煽ったのが自分達だとはいえ、まさかこの会議でそれを言い出すとは思わなかったのだろう。議長の発言は軍人のいる前では絶対に言ってはならない事だった。
「軍部からの提案を投票にかけましょう」
 ウィンザー夫人が言うと、数秒の間をおいて数人から賛同の声があがった。この場にいる政治家の全員が、権力の維持と選挙の敗北による下野とを秤にかけている…。
「待ってくれ」
 レベロはそう言いながら座席から半ば立ち上がった。太陽灯の下にいるにもかかわらず、その頬は老人じみて見えた…。
「吾々にはそんな権利はない。政権の維持を目的として無益な出兵を行なうなど、そんな権利を吾々は与えられてはいない……」
 レベロの声が震えている。アニメで観ても衝撃を受けたが、現場でそれを見せつけられると、政治家というのは何を考えているんだ、と思う。本当にとんでもない、これだったらまだトリューニヒトの方がマシだ。この世界のトリューニヒトは自分の願望と現実の折り合いを上手くつける事の出来る現実的な政治家だ。

 「まあ、きれいごとをおっ
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