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星々の世界に生まれて〜銀河英雄伝説異伝〜
第九十三話 本音と建前
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万人もの人数を後方勤務から外されたら軍組織は瓦解してしまう」
「国防委員長はそうおっしゃるが、そうでもしないと早い時期に社会機構と経済は停滞に向かうだろう、景気は上昇しているのにだ。結果として軍も戦争遂行など無理という話になるのだが…現在、首都の生活物資流通制御センターで働いているオペレーターの平均年齢をご存じか」
「……いや」
「四二歳だ」
「異常な数字とは思えないが……」
 ホワンは勢いよく机をたたいた。
「これは数字による錯覚だ! 人数の八割までが二〇歳以下と七〇歳以上で占められている。平均すればたしかに四二歳だが、現実には三、四〇代の中堅技術者など少ないのだ。社会機構全体にわたって、ソフトウェアの弱体化が徐々に進行している。これがどれほど恐しいことか、賢明なる参加者各位にはご理解いただけると思うが……」
ホワンは口を閉じ、ふたたび一同を見回した。まともにその視線を受けとめた者はレベロ以外にいなかった。ある者は下を向き、ある者はさりげなく視線をそらし、ある者は高い天井を見上げた。くっそ、原作の名シーンだ、違う意味で嬉しくて身震いしてしまう…。
「つまり民力休養の時期だということです。イゼルローン要塞とアムリッツァを手中にしたことで、わが同盟は国内への帝国軍の侵入を阻止できるはずだ、それもかなりの長期間にわたって。今正に現状はそうなっている。とすれば、何も好んでこちらから攻撃に出る必然性はないではないか」
 ホワン爺さんがそこまで言うと、再びレベロが発言する。
「人的資源委員長の言う通りだ。これ以上、市民に犠牲を強いるのは民主主義の原則にももとる。それに、軍部の長期持久という方針に対しては市民からの反対の声はそれほど聞こえない。という事は、同盟市民もまた民力休養を考えている事になる」
 そのレベロの発言に対し反駁の声が上がった。声を上げたのはまたしてもウィンザーだった。本当にろくでもない奴だ、新任されたばかりだから存在感をアピールしているんだろうが…。
「大義を理解しようとしない市民の利己主義に迎合する必要はありませんわ。そもそも犠牲なくして大事業が達成された例があるでしょうか?」
「その時期は今ではない、と市民は考えているのだ、ウィンザー夫人」
 レベロは彼女の公式論をたしなめるように言ったが、効果はなかった。
「どれほど犠牲が多くとも、たとえ全市民が死にいたっても、なすべきことがあります」
「そ、それは政治の論理ではない」
 思わず声を高めたレベロをさりげなく無視して、ウィンザー夫人は会議室を見渡して、よく通る声で意見を述べはじめた。
「わたしたちには崇高な義務があります。銀河帝国を打倒し、その圧政と脅威から全人類を救う義務が。民意に迎合して、その大義を忘れるのは果たして同盟の為政者の取る態度と言えるでしょうか」

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