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星々の世界に生まれて〜銀河英雄伝説異伝〜
第九十三話 本音と建前
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ようになりますよ。私としては、超インフレーション時代の無策な財政家として後世に汚名を残すのは、ごめんこうむりたいですな」
「しかし戦争に勝たねば、十年後どころか明日がないのだ」
「では戦争そのものをやめるべきでしょう」
 レベロが強い口調で言うと、室内がしんとした。
「今この場にもいらっしゃるウィンチェスター副司令長官のおかげで吾々はアムリッツァを得た。その過程でイゼルローン要塞を失った帝国軍はわが同盟に対する侵略の拠点を失った。同盟が有利な内に休戦すべきでしょう」
「しかしこれは絶対君主制に対する正義の戦争ですよ。彼らとは倶に天を戴くべきではない。不経済だからといってやめてよいものではないでしょう」
そう反論したのは情報交通委員長のコーネリア・ウィンザーだ。本当にとんでもない時にとんでもない事を言いやがる。案の定、議長と三提督がウンウン頷いている。正義の戦争か…莫大な流血、国家の破産、国民の窮乏。正義を実現させるのにそれらの犠牲が不可欠なのだとしたら、正義ってのはロクでもない奴だよ…。

 レベロに続いて発言を求めたのは、人的資源委員長として教育、雇用、労働問題、社会保障などの行政に責任を持つホワン・ルイだった。俺はこの爺さんが好きだ。彼も原作同様出兵反対派である。
「人的資源委員会としては……」
 ホワン爺さんは小柄だが声は大きい。
「本来、経済建設や社会開発に用いられるべき人材が軍事方面にかたよるという現状に対して、不安を禁じえない。好景気の一方で教育や職業訓練に対する投資が減っているのだ。労働者の熟練度が低くなった証拠に、ここ六ヶ月間に生じた職場事故が前期と比べて三割も増加している。ルンビーニ星系で生じた輸送船団の事故では、四〇〇余の人命と五〇トンもの金属ラジウムが失われたが、これは民間航宙士の訓練期間が短縮されたことと大きな関係があると思われる。しかも航宙士たちは人員不足から過重労働を強いられているのだ」
 明晰できびきびした話しかたであった。
「先年、軍から四百万人の人材が民間に戻って来た。国防委員長の英断にはまことに頭の下がる思いだ。だがそれでも社会は人材が足りない。先に述べた事故も技術者が足りない事が原因だ。現在、国内の景気は上向きに推移しているからどの業界でも資格保持者は引く手あまただ。結果、資格取得の為の教育期間を短縮してでも現場に人材を送り込まなければならないという本末転倒な事態が発生している。国防委員長にはまことに申し訳ないが、軍に徴用されている技術者、輸送および通信関係者のうちから更に二〇〇万人は民間に復帰させてほしい。これは最低限の数字だ」
 会議室を見わたすホワンの視線が、国防委員長トリューニヒトの面上で停止した。
「ホアン委員長、無理を言わないでほしい。四百万人戻すだけでも大変だったのだ。更に二百
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