第九十三話 本音と建前
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兵力は五個艦隊程とか…しかもそれを率いるのは新しく宇宙艦隊副司令長官に任じられた新任の若い大将です。恐れる事はありません、我が方が動員するのは十個艦隊、子供でも分かる簡単な算術です。必ず勝利する事が出来ます」
ホーランドの説明を受けて今度はルグランジュが後を続ける。
「敵の副司令長官は若年のミューゼル大将、姉が皇帝の寵姫であり、コネのおかげで重用されているに過ぎません。ミュッケンベルガーが前線に出て来ない今こそ、絶好のチャンスなのです」
三者が三様に発言を終えると、会議室は静かになった。願望、楽観論、過小評価による希望的観測だけが一人歩きしている。悪い意味で、そういう見方も出来るのか…と感心させられるくらいだ。
会議室がひとしきり静かになった後、グリーンヒル本部長が発言を求めた。
「三人共、そういう楽観的観測は危険だ。敵のミューゼル大将がたとえコネで重用されていたにしても、その戦術能力は非凡だ。敵に倍する兵力を持っていたとしても苦戦は間違いない。その能力に裏付けがあるからこそ前線を任されているとは貴官等は考えないのか」
本部長の言葉は重い。直接ではないにせよ、本部長はボーデンで味方の三個艦隊がラインハルトに撃破されていくさまを見ている。本部長の立場からすれば、目の前の三馬鹿を蹴り飛ばしたいくらいだろう。
「本部長がボーデンでの事を仰っているのであれば…あれは帝国軍にとっての好条件が重なっただけです。索敵監視さえ怠らなければ、二度と遅れを取る事はないでしょう」
ムーアの発言に対して本部長が言い募ろうとした時、サンフォード議長が艶のない声で本部長の発言を遮った。
「一旦休憩としよう」
昼食を兼ねた休憩が終わり会議が再開された。最初に発言を求めたのは財政委員長ジョアン・レベロだった。
「妙な表現になりますが、今日まで銀河帝国とわが同盟とは、財政のかろうじて許容する範囲で戦争を継続してきたのです。しかし……」
これまでに戦死した将兵の遺族年金だけでも、毎年、約一〇〇億ディナールの支出が必要になる。このうえ戦火を拡大すれば、財政が持たない事は自明の理だった。アムリッツァを確保して国内経済が活性化しているからこそ小康状態を保っているものの、財政健全化はまだ遠い先の話だろう。
「財政がようやく健全化に向かいつつある今、更に大規模な軍事行動を続けるという事は、赤字に転じるという事です。それを避けるには国債の増発か増税か、昔からの二者択一です。それ以外に方法はありません」
「紙幣の発行高を増やすというのは?」
議長が問うた。
「現在の好景気は特需の様なものです、永遠に続く訳ではない。しかも戦争はどう転ぶか分からない。財源の裏付けがないのです。そんな中で紙幣の増発など行ったら、十年後には紙幣の額面ではなく重さで商品が売買される
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