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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第105話 憂国 その5
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外へと出て行く。その動きを追っていたソーンダイク氏以外、ここにいるもう誰もが気にしない。

 随分と冷たい奴らだと思う。特に幹部達はマクレガン氏と同類だが、最初に動かなかったというだけで危機を回避した。ソーンダイク氏が彼ら幹部の意識を改められるかは分からないが、少なくとも今回の事で氏の存在を軽視することはできないだろう。あとは氏の熱意次第で、これ以上のお手伝いは不要だ。

 背中に氏への賞賛を聞きつつ、俺は冷めた目で通路に横たわる憂国騎士団の面々を見る。自分の暴虐性がハッキリとした現実としてそこに存在する。なにが平和主義者か、とんだ暴力主義者ではないか、ともう一人の俺が冷静に指摘する。
 ではどうすればよかったのか。奴らのスタンガンを受けて床にのされていればいいのか。飼い主の名前を出して奴らを引き下がらせればよかったのか……暴力に身を委ねたのは軽々なのは充分に分かっているのだが。

 今更ながらにひたすら自身の無能さと臆病さと二面性に対する嫌悪で、煮えたぎる鍋のように頭の中が熱くなる。血糊が残る拳に自然と力が籠り、米神に血が集まっていくのも分かる。鏡を見れば夜叉が映っているだろう。こんな顔は見られたくはないので、そっと集団から離れようと洗面所のある扉の方へ向かった時だった。

「ハイネセン治安警察だ! 全員その場で動くな!」

 クリーム色の制服に白い制帽を被った正義のミカタ達が、声と警棒を振りかざしながら会場に乱入してくる。だが入ってきて、中の『惨状』を見た警官たちの顔に、困惑が溢れている。自然と彼らの視線は上級者へと集中したのを見て、俺はもう笑いが堪えられなかった。想定していた『加害者』と『被害者』が文字通りだったのだから。

「貴様! 何がおかしい! おい!」

 指揮官が、静まり返る会場の中で一人笑う俺を指揮杖で指示し、その指示に従って二人の警官が挟み込むようにして両腕を拘束する。別に引き摺られていくつもりはなかったので、両隣の警官たちとわざとらしく三人四足をしながら指揮官の前に赴いた。

「これはどういうことだ!」
「どういうことだ、と言われましても見た通りですよ……警部補殿」
「なに!」
 憂国騎士団の面々よりはるかに遅いパンチが、俺の左頬を目掛けて繰り出されてくる。避けるつもりは当然ない。結果が想定外でイラついているのか。警部補殿がバカすぎてさらに冷静でないのは、俺にとっては実にありがたい。ありがたすぎてさらに笑いが堪えきれない。
「貴様! まだ笑うか!」
 今度は右頬。遅いなりに力が入ったパンチで、口の中が鉄臭くなるのがわかる。視線が下がったので次は腹だろうから、もういいだろう。
「警察職員の職務倫理規定違反だ。公務執行に際し、無抵抗の拘束者に対する暴行は、これを固く禁じられている」
「な……」
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