第105話 憂国 その5
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は今の反戦市民連合にはない。ということは『弱小すぎて潰しても誰も気にしない』からいい機会だと思ったということか。
思想的には恐らく俺と彼らでは全く違う。だがこのまま潰されていいわけではない。俺がここで何かしなくても、ソーンダイク氏なら自ら危機感を持って党派を建て直す行動に出るだろうが、それを手助けするのは決して悪いことではないはずだ。
「メシなんかいらねぇよ。どうせ俺のような男の口にはあわねぇし」
軽く力を入れて握手を振りほどきつつ、変装した『底辺労働者』らしい口調で言って、意図的にマクレガン氏を押しのけて、通報の終ったソーンダイク氏に近づて頭を下げる。
「すみません。ソーンダイク先生。さっきは引き摺り倒しちまって」
「何を言うんだね。君こそ大丈夫なのかい。私の代わりに二撃も受けてしまっただろう」
そう言ってソーンダイク氏は俺の両腕を両手で掴む。演技ではなく即座にそうしたのは、政治センスよりも自身の人の善さからなのだろうが、この際の比較対象はマクレガン氏だ。
「先生こそあんなチンピラ達を前に堂々と立ち向かわれたじゃないですか。腕にちっと自信がある俺ですら少しビビってたってのに、口火を切れる先生の度胸は大したもんだ」
「……いや私は弁護士だから、ちょっとした脅しには慣れていただけだよ。あんな問答無用でスタンガンを振るってくるような奴らと知ってたら、私だって……」
「それでも仲間を守る為に体張ったわけでしょ、しかも自分からは暴力をふるわないように両手を後ろに回して。すげぇよ」
俺の野卑で率直なホメ言葉に、聴客の敬意が自然とソーンダイク氏に集まっていく。それをすぐさま感じとったのか、マクレガン氏が俺とソーンダイク氏の間に割り込んでくる。だがもう遅い。
「ソーンダイクさん。ご迷惑をおかけした。もうこんなですから、今日の講演会はこれまでと……」
「うっせえぞ。俺がソーンダイク先生と話しているところに割り込んでくるんじゃねぇよ」
マクレガン氏の胸を敢えて倒れない程度の力を込めて、平手で強く押す。あまり鍛えていないのか、マクレガン氏は想定より長い距離をヨタヨタと体感を崩す。
「自分の仲間達を守ろうとしない腰抜けは黙ってろ」
「な!?」
「平和主義者だから腕力は使わないって言うなら、せめて客の安全を確保するように行動しろよ。ソーンダイク先生ほどの器量も度胸もねぇんだから、せいぜい自分ができることに無いアタマを使え」
俺の面罵にマクレガン氏の顔は真っ赤になるが、俺の呆れた視線と自分のスーツについた血糊、それに周囲から浴びせられる冷たい視線に後ずさりする。そこには氏の仲間であるはずの幹部達もいたが、彼らから『もうコイツをフォローする価値はない』といった感じの視線を浴びせられ、そのまま壁伝いに非常口から会場
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