第105話 憂国 その5
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は、同盟市民の生命と財産を守るべき軍人の為すべきことではない。人生の正解とは程遠いが、俺の良心がそれでは耐えられない。本来は海賊や帝国軍を対象とした、同盟軍基本法下服務規程における市民の緊急保護要領を法的根拠にするしかないだろう。それで躾のなってない犬の飼い主がそれで納得してくれるか未知数だが。
大きく溜息をついてから首と肩を廻し、携帯端末で化蛇に緊急コールを入れ、左胸ポケのボタンを再確認し、クロスバックから身分証を取り出して尻ポケットに入れる為に俺が腰を浮かせると、突然横から右肩を押さえつけられた。
「一般聴客で軍人のボルノー君に迷惑をかけるわけにはいかない。これは私の仕事だろう」
肩を押したソーンダイク氏はそう言って席を立つと、クリーム色のスーツの両襟を両手で伸ばし、堂々とした歩みで前席へと向かっていく。それは弁護士としていろいろな修羅場を潜ってきている証拠かもしれないが、マフィアと違って弁護士バッチを付けていたところでまったく気にしない狂犬共だ。緊急コールにさらに位置情報を追加で送信して、俺は慌ててソーンダイク氏の後ろについていく。
そんなソーンダイク氏と俺の動きに、まずは前方席に座っていた聴客達が地獄で仏を見たような表情を浮かべ、次に研究会の幹部達がやや苦々しい表情を浮かべて、その視線に釣られるように最後に騎士団の連中が気づき、三者とも黙ってこちらを見つめてくる。
まるで全方位集中砲火を浴びせられているようだが、ソーンダイク氏は平然と聴客と憂国騎士団の間まで移動し、中央通路でリーダーに向き合った。俺はそんなソーンダイク氏より二歩左後ろの位置に立つ。
真正面に対峙することによって、憂国騎士団の面々の敵意もまたソーンダイク氏に集中するが、リーダーのマスクの奥にある暗い瞳だけは俺の顔に向いている。つまりは制裁粛清行動の障害になりうる『護衛官の位置』を理解しているということ。頭の中身が狂犬とはいえ、リーダーを務める理由はそういうところか。
「私は弁護士のジェームズ=ソーンダイクだ」
そんなリーダーの視線に気づいているのかいないのか、ソーンダイク氏は両手を腰に回して胸を張って言った。
「君達がなにを求めてここに来ているのかは知らないが、意見を述べたいのであればまずは席に着き、弁士の演説を聞いた後で司会者の指名を待つべきだろう。少なくともいきなり立ち入ってきて、拡声器で妨害する必要はないはずだ」
まさしく正論であって、そんなことは百も承知の上でこいつらはスタンガンを持ってきている。ここは地上であって宇宙空間ではないが、会場には窓が殆どなく、固定された座席の間にある中央通路は男が三人並ぶのが精いっぱいの幅。舞台はレダUのシャトル搭乗ゲートによく似ている。ちなみに出演者も一方は同じ『劇団』だ。だからこそソーン
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