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ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第105話 憂国 その5
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 宇宙暦七九一年 三月 ハイネセンポリス

「我々は真に国を愛する憂国騎士団だ!! 我々は君達グエン・キム・ホア平和総合研究会を弾劾する!!」

 鉄色の戦闘服に身を包んだ骸骨マスクメンの、品性も欠片もない音量だけが大きい前口上が、文字通り聴客の乏しい会場を揺るがす。大学の講義にも使用されるので、音響効果はバツグンだ。演壇に立ったばかりの女性弁士は耳を塞いでいるし、ボンボン達も気味悪そうな表情で、憂国騎士団の方を見つめている。

 静まり返る会場のほぼ中心。演壇と出入口の中間点までゆっくりと降りてきた憂国騎士団のリーダーと思しき男は、団扇のようなトラメガを左手に持ち右腕を伸ばして女性弁士を指差した。

「君達はこの国難ある時に、自由惑星同盟市民としてあってしかるべき国家への献身を怠り、自己正当化の為に国益に反する主張をして人心を惑わせ、国家の団結を乱そうとしている!!」

 国家への献身を今もって怠ってるのは誰で、自己正当化の為に国難を振りかざし、団結の美名の下に威圧で異論排除しようとしているのはお前らじゃねーのか、と呆れてモノが言えなかったし実際に言わかったのだが、女性弁士は演壇の下に蹲って耳を塞いでいるだけだし、反戦市民連合の幹部らしい先程の男性弁士は同志らしい年配の男達と内緒話をしているだけで何も反論しない。

「これらはまさしく売国奴の所業であり、我々憂国騎士団にとって制裁・粛清に値する行為である!!」

 でかい鏡があるなら見せてやりたいが、今こいつらよりも問題なのは研究会側の幹部達だ。突如乱入してきた狂人達を前にパニックに陥っているのかもしれないが、(無駄だとは思うが)治安警察に連絡するなり、(たぶん別の団員が隠れているだろうけど)非常口に誘導するなどして、聴客の安全を確保するよう努力したらどうだと思ったが、宣戦布告してから一〇秒経っても彼らには動く気配がまったくない。

 憂国騎士団の背後にいる怪物の存在を考えれば、あえてここで俺がその役目を買って出る必要はない。憂国騎士団の注意は弁士や熱心に会場前方で話を聞いていた聴客達に集中しているので、出入口に最も近い最後列の優位を生かし、出口を塞いでいる一人を無力化して、この場をトンズラするのがお利口さんだ。

 だが憂国騎士団全員の右腰には例の棒状スタンガンがある。法的にはおそらくアウト(非殺傷兵器の無許可携帯)の代物。会場に入ってきた団員の数は二〇。俺を含めた聴客の数からいって団員一人あたり五人ブチのめせれば、俺を含めて研究会側は全滅。そしてシトレの幼馴染が言っていたように、近くで遠巻きにしている治安警察によって逮捕されるだろう。研究会側が、騒乱罪の名目で。

 思想的に相容れない相手だとしても、これから想定される惨劇から目を逸らして身の安全だけを確保すること
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