第三部 1979年
迷走する西ドイツ
暮色のハーグ宮 その2
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早くマサキたちに手錠をかけると、パトカーに乗せられた。
近くで待機していたソ連大使館の秘密工作員たちは、事態を傍観しているばかりではなかった。
マサキがパトカーで連れ去らわれるの見て、すぐにボンのソ連大使館(今日の在ボン・ロシア総領事館)に電話を入れる。
「申し訳ありません。
日本野郎に逃げられてしまいました。
しかも地元の州警察に逮捕されてしまいました」
KGBの現地工作員の電話相手は、大使館の警備担当者だった。
ソ連の場合、大使館職員の殆どが、KGBか、GRUの工作員だった。
「まあいい。
あの黄色い猿めにはうんざりしていたところだ。
警察に連れていかれれば、我らが送り込んだスパイの手によって始末されるだろう。
ピストルを持った外人犯罪者として、内密に処理されるだろう。
こっちには、ニーメラやヴェーバーという反核の活動家がいるからな。
あれがあれば、何もいらん」
「す、すみません。
じ、実はヴェーバーも逮捕されてしまったのです。
われらがKGB職員と共に!」
その言葉を聞いた瞬間、西ドイツのKGB部隊を取り仕切るKGB大佐は色を失った。
自分の首に手を当てて、縛り首のひもの長さをあれこれ考えるほどの慌てぶりだった。
「ば、馬鹿者!すぐに取り戻せッ。
ヴェーバーが居なければ、反核運動の旗振り役はいなくなるのだぞ!
何もかもが無駄になる……判っておるのか!」
マサキたちが連れていかれたのは、ボン市内にある保安警察のボン本部ではなく、連邦内務省だった。
西ドイツでは基本的に地方自治が優先され、警察組織も各州ごとにゆだねられている。
だが刑事警察は、国際スパイ事件や政治案件を担当する国家保安部門が置かれている為、中央の統制を受けた。
内務省には連邦刑事局が置かれ、各州の犯罪捜査を調整・支援するとともに、国際刑事警察機構との国際捜査協力にも当たっている。
後ろ手に手錠をかけられたまま、マサキたちは内務省ビルの最上階に連れていかれる。
「どうなるの、私たち……」
全員が押し黙る中、キルケが口を開いた。
キルケの諦めに似た言葉に、マサキは淡々と答える。
「まあ、最悪の事態になるだろうな。
今の西ドイツは、ビルダーバーグ会議の王配殿下の部下たちとKGBスパイに牛耳られているからな」
エレベーターの中で、キルケは動こうともせずじっと扉と直面していた。
そのうちに、キルケの目頭は涙で一杯になり、扉が見えなくなった。
最悪の事態といわれて、KGBスパイのヴェーバーは意気地なく乱れてきた。
外で見たなら、面貌が真っ青に変っていたかもしれない。
マサキには、ありありとそのさまが見て取れる。
ヴェーバーはこ
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