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冥王来訪
第三部 1979年
迷走する西ドイツ
暮色のハーグ宮 その2
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うのは最善の策である。
ソ連が裏から西側の平和運動に人・物・金を提供するのは、非常に合理的で利益に見合った行動なのだ。
マサキは、遠い記憶と共に、欧州の反核運動に深い憂慮を覚えた。 

 過去の追憶から戻ったマサキは、二、三服の煙草をゆったりくゆらす。  
白銀が、なんの気もなく言った。
「鍵はヴェーバーか……」
それまで黙っていた鎧衣が口を開いた。
「危ないな……」
「うん?」
マサキは鎧衣の意図がつかめないまま、返事をする。
「確かにヴェーバーを捕まえて、KGBとの関係を吐かす……
東側のスパイ工作を実体化するいい方法だ。
だが、向こうもそう考えていたら、どうする?」
 おそらくKGBはこの機に乗じて、ヴァーバーを消すことも考えられる。
或いは、ソ連国内に連れ出す準備をしている。
 ボンのソ連大使館に逃げ込まれたりすれば、外交特権で手出しできない。
いや、大使館ごと殺しても良いが、そのことを理由に日本は外交特権を失いかねなくなる。
 目の前にいるKGB工作員か、或いはハーグ宮の王配殿下か……
マサキ達は難しい判断を迫られる状況に陥ってしまった。

 ヴェーバーを捕まえて、西ドイツのスパイ網の一端を暴露させれば、西ドイツでのソ連の影響は削げる。
だが、ビルダーバーグ会議の陰謀から遠のく。
 ハーグ宮に乗り込んで、王配殿下と話を付ければ、ビルダーバーグ会議の妨害は落ち着くだろう。
だが、KGBやシュタージの影響は残ったままでは、欧州の政治状況はよくはならない。
 アイリスディーナやベアトリクスを取り巻く状況は悪化するかもしれない……
或いは西ドイツが今以上に左傾化し、キルケやココットにも迷惑がかかる……
「前門の虎か、後門の狼か」
 マサキは、こういって後は眉をしわめたまま黙ってしまった。
倒すならKGBか、ビルダーバーグ会議か、それを考えあぐねていたのである。
 白銀も、それを真似して眉を顰める。
しばらくは、どっちからも口を開かずに、沈思黙考というふうである。
 悪知恵をめぐらす頭も、自然にシンと落ちついてくるらしい。
やがて白銀が、こううなった。
「ゲーレン翁に相談してはどうですか」
 ゲーレンの自宅に連絡を入れたが、彼はココットと共にボンに来ているという。
これ幸いとばかりにバスチアン宅を後にし、ボン市内に車で乗り出した。
 車はバスチアンの愛人のオペル・カデットを拝借し、運転はキルケに任せた。
一応美久はゼオライマーで待機させたまま、上空から二台の無人誘導の戦術機を随伴させる。


 ゲーレンの情報によれば、ヴェーバーはボン大学計算機博物館からほど近いホテルにいた。
元秘密情報部長官だけあって、部屋番号まで正確に調べ上げていたのには、マサキも驚かされた。
 4階の
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