第三部 1979年
迷走する西ドイツ
暮色のハーグ宮 その1
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ランダの戦術機産業が発展し、国民が豊かになったという噂も聞かない」
チェースマンハッタン銀行の頭取が、割って入るような形で言った。
黙って聞いていた彼は、苦笑を浮かべながら、最後通牒を行う。
ビルダーバーグ会議の中での立場も、影響力も彼の方が上だが、相手が王族なので丁寧に話している。
「もはや、我々の力では、いかんともしがたいところに行っているのです。
もし、ビルダーバーグ会議の議長職を辞任なされば……。
我々としても、手助けできるでしょう」
王配殿下はしばし絶句し、キッシンジャーとブレジンスキーの顔を見つめた。
次いで、二人ともばつの悪そうな表情を浮かべる。
「せめて、木原と日本政府への謝罪を実施すれば、如何様にでも、お助けをしましょう」
王配殿下は、背筋が冷たくなるのを感じた。
どうこうできる話ではないにしても、納得できるものではなかった。
腹が立った王配殿下は、思わず机を両手で叩いた。
「黄色い猿目に、頭を下げるだと!
もう、この命に未練などないわ!」
「もう君は必要ない。
我々が後始末しよう」
「フハハハハ、私の後始末を付けるだと!
貴様らに後始末をされる問題など抱えていない!」
王配殿下は、その時、机の引き出しを静かに開ける。
引き出しの中に入った44オートマグを即座に取り出せるように準備した。
「それじゃあ、仕方がないな。
これを持っていきなさい」
そういって、会長は机の上に一通の手紙を投げた。
除名処分と赤字で書かれた封書である。
「じょ、除名処分!」
「この除名処分には、添え状が付いている。
外交問題評議会の幹部全員……
それと、石油財閥傘下の各企業の添え状だ」
処分は思った以上に仰々しいものだった。
王配殿下は、込み上げる絶望感に喘いだ。
「まあ、早い話、この除名処分出された日には……
この自由世界には、どこにも行き場がないという事さ」
額に太い筋を立てていた王配殿下は、歯ぎしりを噛んだ。
まるでこの米人どもは、おれの今を冷やかしていやがる。
俺の、この形相を嘲笑っていやがる。
なにが面白い?……
全身はあぶら、額にも汗をしぼって、王配殿下の息は荒く苦しげだった。
「貴様ら、外交顧問風情が、王族の私に向かって、何だ!」
王配殿下は、机の中に手を突っ込む。
44オートマグを取り出すと、怒りのあまり、銃身を彼らに振り向ける。
安全装置を解除すると、食指を引き金に添えた。
「じゃあ、私を破門にでも何でもするがいい!
貴様らにビルダーバーグ会議を割られたところで、この蘭王室は痛くもかゆくもないわ!」
米国と蘭王室のもめごとは、NATOにとっては不幸であった。
だが、根無し草であるキッシンジャーやブレジンスキーにとっては
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