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冥王来訪
第三部 1979年
戦争の陰翳
苦境 その2
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へへ、木原の屑野郎め、今に見ておれ。
ドイツ美人は、お前の代わりにたっぷり可愛がってやるよ」
 脇にいた大伴は聞いていられなくなり、すでに席を外していた。
男たちは酒をすすりながら、残忍な笑みを湛えた。
 そこに白の色留袖を着た銀髪の女がやって来た。
大野は酒で濁った眼で彼女の白い肌を見やると、口を耳元に近づけた。
「あの木原とかいう男の頭の中を見ろ。
お前が危険と感じたならば、殺しても構わない」
 雪女の様な姿恰好をした人物は、大野のソ連人妻だった。 
人工ESP発現体の生き残りの一人だったのを、大野が見初めて妻とした女性だった。
彼女の兄はKGB第一総局の工作員で、彼女自身もKGBの協力者だった。
 人工ESP発現体とは、ソ連が実施したオルタネイティヴ第3計画により開発された人造人間である。
超感覚的知覚(エスパー)によって精神感応(テレパシー)や、予知視能力(プレディクション)透視能力(リーディング)を持つ。
 英語のExtra(エクストラ)Sensory(センソリィ)Perception(パーセプション)の頭文字を取り、ESPと一般的に言われる存在である
早く言えば、他人の思考を自在に覗き見出来たり、機械の中身を分解せずに見れる能力である。
 その他に人工ESP発現体には、観念動力と呼ばれるものが存在する。
英語のPsychoKinesis(サイコキネシス)の頭文字を取って、一般にはPKといわれるものである
俗に念力と呼ばれるもので、心に思うだけで自動車や鉄骨などを自在に空中浮遊させる能力を有する。
 しかしESP発現体は、超能力を人工的に再現する為、多量のコカインや覚醒剤を日常的に投与されていた。
コカインや覚醒剤は、脳回路における化学伝達物質であるドーパミンの水準を上昇させる薬物である。
 精神的覚醒と極度の興奮状態をもたらすが、強力な中毒性を持つ精神刺激薬でもある。
幻覚や妄想を生じさせ、つらい離脱症状を逃れる為に、より多くの薬物を依存性をもたらす薬である。
(注:ソ連では、西側に比して薬物規制が甘く、薬局で処方箋があればコカインが自由に購入できた。
ソ連の保健当局や警察、KGBが関心を持ったのは、麻薬中毒ではなく、アルコール中毒だった)
 また反乱防止のため、指向性蛋白を一日一回は接種せざるを得なかった。
指向性蛋白は、BETA由来の物質で、食事や水に混入するだけで記憶操作ができる精神作用を持つ薬物である。
 この薬物に注目したのは、KGB上層部である。
指向性蛋白がソ連科学アカデミーで発見されるまで、KGBは2年近い洗脳教育を施すしかなかった。
 長時間の思想洗脳や、視覚を通じた潜在意識化の洗脳も必要なかった。
ステファン・バンデーラを暗殺したボグダン・スタシンスキーに施
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