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冥王来訪
第三部 1979年
戦争の陰翳
苦境 その2
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んだん悪くなってきたのを見計らってか、不意に彼らに話しかける者がいた。
160センチ強の背丈に、リンゴのような胴体に手足が生えた体型をしていた。
「ありゃ、ベルンハルトとかいう東ドイツのエースパイロットの妹ですよ。
なんなら私の方で裏から手を回して、手に入れますか」
 話しかけた人物は、大野という貿易商だった。
彼の祖父は代議士で、与党・立憲政友会の最大会派の領袖だった。
 大変な漁色家(ぎょしょくか)として知られ、常に女を侍らせていた。
その為か、KGBの色仕掛け作戦に引っかかり、工作員の妹とされる人物を妻として迎えていた。
「出る所が出て、締まるところが締まっている。
良い女じゃないですか……抱けばああいう女もイチコロですよ。
ヒイヒイとよがり声をあげて、求めてきますから」
 大野は下卑た笑みを浮かべながら、熱っぽく語った。
遠くから、その様子を見ていた人物がいたのにも気が付かずに。
 大伴は思わず眉をひそめる。
こういう場では、だれが聞いているかわからないからだ。
 東ドイツの関係者の中に、日本語ができる人物がいてもおかしくはない。
いくら斜陽のシュタージとは言えど、KGBから手ほどきを受けた諜報機関なのだ。
 関係が悪化する前なら笑ってすましていたかもしれんが……
こういう下品な男は、機会があったら殺そう。
 今はソ連と東独に知り合いを多く持つ、大野の利用価値は捨てがたい。
大伴はそう考えると、目の前にあるぬるくなったビールに口を付けた。
 無口な大伴をよそに、大野と穂積が酒を片手にアイリスディーナを見やった。
 漁色家の大野は、大酒飲みの大伴に付き合ったせいでだいぶ酔っていた。
アルコールのせいで押し隠していた獣欲が顔を見せる。
「ウへへ、こうして観音様(かんのんさま)を拝めるとは、また感慨もひとしおですねぇ、穂積さん」
 観音とは、仏教の菩薩の一つで、正式名称を観自在菩薩という。
またの名を観世音菩薩や、救世菩薩といい、広く信仰・礼拝の対象となっている存在である。
 元は男性神であったが、北伝で支那に入った際に女神となり、日本に伝わった。
観世音菩薩は女性の表象された仏という経緯から、美しい女性を観音様と隠語で呼ぶようになった。
 本来の仏とは性別の区別がなく、それから超越した存在なのだが、なぜかそのような言葉が出来てしまった。
またその事実は、日本文化にいかに仏教が浸透したかともいう裏付けでもあった。
 大野の言葉に、黄色い歯を剥いて、穂積はうなずく。
邪悪な考えで濁った眼で、アイリスディーナの気高く近寄りがたい美貌を見る。
「若くピチピチで、その上、本当にいい体をしていやがる。皮を剥いてやるのが楽しみだわ」
 大野は、下卑(げび)た笑みを浮かべると、こうつぶやいた。
「へ
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