第三部 1979年
戦争の陰翳
苦境 その2
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賄ったためである。
党は軍の事をけっして信用せず、また軍も党の命令に忠実ではなかったからだ。
一応、陸海軍政治総本部という部署を設け、党の命令に従う将校を用意したが、それでもソ連軍は共産党の思う通りに動かなかった。
その為に、1918年12月19日のチェーカー命令によって、この秘密機関が設置されたのだ。
一説には600の部局があり、諜報任務の他に核輸送なども実施した。
マサキは、彼にしかわからない笑みを浮かべると、タバコに火をつけた。
しかし、シュタージの組織は、KGBそのものではないか……
管理部門の番号まで一緒とは、KGBのデッドコピーそのものだ。
タバコを吹かすうちに、マサキの関心は、KGBからタバコの味へと変わっていった。
恩賜のタバコというのは、本当に味もそっけもない煙草なのだな……
これならば、ゴールデンバットの方が美味に思える。
あの煙草は、芥川龍之介や太宰治などの名だたる文豪が愛した両切りタバコだから。
そして、また多くの兵士と共に前線を歩いたタバコであった。
フィルター付きのシガレットとは、また違った面もよいのかもしれない。
マサキは煙草をもみ消しながら、そう思った。
その直後、一斉に席を立ちあがる音がする。
マサキも続いて立ち上がり、挨拶をする。
マサキとアイリスディーナとの再会の挨拶は、敬礼という素っ気のないものだった。
淡々とした挨拶が続く中、マサキは興味無さそうな顔をして立っていた。
先程から首脳たちの所に耳打ちに来ている秘書官たちの方に、マサキの関心はあった。
何か、このところ静かなソ連に関する動きがあったのだろうか。
そう考えると、目の前に来た東独軍の随行武官の事など後回しになった。
側にいる美久に注意されるまで、首脳の動きに気を取られているほどだった。
マサキたちの様子を遠くからうかがうものがいた。
陸軍礼装を着こなした男と、頭を僧侶の様に反り上げたタキシード姿の男である。
1人は帝国陸軍の中で日ソ友好論者の急先鋒と知られる大伴忠範中尉。
もう一人は、穂積という人物で、機械部品会社の社長であった。
穂積は大学時代、左翼系の団体に参加した経歴の持ち主であったが、卒業をまじかにして団体から遠ざかり、実家の機械製作所を継いだ。
そこから産業界から遠ざけられていたソ連のシベリア開発に参加し、KGBのエージェントとなった男であった。
「木原と話している金髪の美女を知っているか……」
大伴は、アイリスディーナの事を一瞥し、こう口走った。
学生活動家崩れの若社長は、ラム酒と何かを混ぜた緑色の酒に口を付けた後、答える。
「東ドイツ軍の陸軍将校みたいですね」
「見ればわかる」
大伴の機嫌がだ
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