第三部 1979年
戦争の陰翳
苦境 その1
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の拡大は、物価高に起因するものだったのか。
どうやら東西問わず、BETA戦争後の欧州の経済状態は深刻なようだ。
議長の傍に近侍していたアイリスディーナは、事の重大さを改めて知った。
自分の祖国である東ドイツが生き残るには、日本や米国に頼らざるを得ない。
この様な現実に直面して、内心の驚きを隠せなかった。
彼女は、今までサミットの場に随行員として参加することに不満を覚えていた。
なぜ各国の内政報告という無意味な議論をする場に、制服を着た人間を引っ張り出すのか。
自分たちに命令を出す指導者たちの知性に、疑問をいだかざるを得ない。
兄がこの場に居たら、そう言っただろう……
女の身空でもそう思うのだから、空軍大尉という一廉の職責にある兄は大変だろう。
自分は最悪結婚して軍から離れればいいが、妻と乳飲み子を抱えた兄はそうはいくまい……
軍隊という中にいたから、こういう現実の世界が見えなかったのを恥ずかしく思った。
木原さんは、きっと自分以上に厳しい立場に置かれてるんだろうな……
そう思って、会場内に目をやると端の方に座っているマサキのことが目に止まった。
何やら、数人の人物が彼の周りに来て話し合いをしている様子だった。
声を掛けに行こうと思えば行けないこともないが、彼に迷惑をかけるだけだろう。
あくまで自分との関係は、秘密の関係なのだ。
いくら政府や首脳が日独関係の融和や親善を叫んでも、世間はそうは見てくれない。
事情を知らない人間からすれば、邪な意図をもって近づいたように見えるはずだ。
木原マサキという人間は、世間の評判とは別に優しい男なのに……
みんなは、彼の事を誤解しているのではないか。
何時も不敵の笑みを浮かべる鉄面皮の悪漢で、何か陰謀を企んでいるのだと。
けっして、そんな事ばかりを思っている人ではないのに……
心からそう思った。
しかしどうすれば、他人が本当のマサキの事を理解してくれるのだろうか。
目の前に紗がかかった様な感覚に、頭が霞んでいく。
驚きと興奮が混ざったような、不思議な感覚だった。
吐息が荒くなり、胸がどきどきしてくる。
そんな気持ちが落ち着くのを、アイリスディーナは、じっと待つことにした。
同じように議長に近侍していたシュトラハヴィッツ中将は、経済問題に退屈を感じていた。
煙草盆から両切りのピースを取ると、火をつける。
紫煙を燻らせた彼は、目だけを動かし、アイリスディーナの方を向く。
ユルゲンの若い妹は、やや俯き、頬を赤く染めている。
その変化に気が付いたシュトラハヴィッツは、ある一計を思い浮かべる。
この際、淡い気持ちを抱く相手に引き合わせてやるのもいいだろう。
そう考えると行動は早かった。
|室内礼装《ゲ
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