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金木犀の許嫁
第二十六話 里帰りをしてその六

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「後期の作品は文章は兎も角」
「自殺する前なので」
「精神的に破綻していますので」
 それが出てというのだ。
「普通に読むには」
「向いていないですね」
「文章を変えた作品よりも」
 江戸時代のそれにというのだ。
「遥かにです」
「読みにくいですか」
「狂気は普通の人には受け入れにくいです」
 幸雄は真剣な顔で述べた。
「どうしても」
「普通ならですね」
「はい」
 そうだというのだ。
「正常と異常はです」
「違いますよね」
「どうしても。そして」
「そして?」
「異常の中でも狂気はです」
「受け入れにくいですね」
「狂気が狂気でなくなれば」 
 若しそうであるならというのだ。
「もうそれはその場所自体がです」
「狂気に陥っていますか」
「狂気の時代という言葉もです」
「ありますか」
「ですから」
 そうであるからだというのだ。
「周りがです」
「おかしくなっていることもですね」
「あります、カルト教団ならば」
「その教団自体がですね」
「おかしいです、狂気が何か」
「そのことをわかることもですね」
「重要かと」
 こう真昼に言うのだった。
「人は」
「そうなんですね」
「若し芥川の後期の作品を読んで」
 河童や馬の脚、或る阿呆の一生等をというのだ。
「狂気を感じないのなら」
「読んだその人自体がですか」
「まさにです」
「おかしくなっていますね」
「そう思った方がです」
 その様にというのだ。
「いいかも知れません」
「そうなのですね」
「少なくとも私はです」
 幸雄は自分のことも話した。
「芥川の後期の作品を読んで」
「おかしいってですね」
「思いました」 
 そうだったというのだ。
「確信さえです」
「されましたか」
「そうでした」
 こう言うのだった。
「持っています」
「そうなんですね」
「ですから読みには」
「中々ですね」
「難しいです」
「そうですか、わかりました」
 真昼はそれではと頷いた。
「芥川の後期の作品はです」
「読まれないですか」
「今は」
「そうですか」
「お話を聞いていますと」 
 真昼は真顔で述べた。
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