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金木犀の許嫁
第二十六話 里帰りをしてその四

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「鬱になった人の心理もですが」
「芥川は鬱だったんですね」
「そうでした、それで診察もです」
「受けていたんですね」
「斎藤茂吉から」 
 俳句で知られる精神科医の彼からというのだ、地元で神童と呼ばれそうして東京帝国大学で医学を学んだのだ。
「そうでした」
「思わぬ縁ですね」
「そうですね、それでその作品は」
「後期のそれは」
「暗鬱か狂気か」
「どちらかですね」
「そうしたものに支配されているので」
 だからだというのだ。
「読まれるにはです」
「要注意ですね」
「はい」
 まさにというのだ。
「そうされて下さい」
「そうですか」
「そして」
 幸雄は話を続けた。
「その死霊の恋は日本で吸血鬼が出た最初の頃ですね」
「その頃の作品ですか」
「まだ吸血鬼という言葉もです」
 これもというのだ。
「まだなかったです」
「じゃあ何て呼んだんですか?」
 白華がそのことを気になって尋ねた。
「バンパイアですね」
「あちらの言葉では」
「吸血鬼って呼ばないのなら」
「夜叉です」
 白華にこう答えた。
「芥川はその様に訳していました」
「夜叉ですか」
「言うなら鬼ですね」
「仏教の」
「羅説と並んで」
「その夜叉とですか」
「訳していました」
 こう話した。
「芥川は」
「そうだったんですね」
「それから後になってです」
「吸血鬼って言葉が出たんですね」
「そうでした」
「そうだったのですね」
「そしてその作品をです」
 幸雄は真昼にあらためて話した。
「宜しければ」
「はい、読みます」
 真昼は確かな声で答えた。
「そうさせてもらいます」
「それでは」
「そして」
 幸雄にさらに話した。
「大阪まで時間を潰します」
「そうされて下さい、ただ短編ですので」
「芥川って短編ばかりですね」
「文庫本一冊分の作品はないですね」
「そうでしょね
「太宰も殆どなかったですが」
 太宰治、その芥川に終生憧れていた彼もというのだ。
「芥川に至っては」
「全くですか」
「どれも短いです」 
 芥川の作品はというのだ。
「ですから読もうと思えば」
「一作ならですか」
「次々にです」
 こう言っていいまでにというのだ。
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