第五章
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後
「宜しければ」
「しかしもう余には」
「過ちを犯したと仰るのですか」
「そうだ。それでどうして」
「私も何かとです」
呉はここでこう言った。
「過ちを犯します」
「そうなのか」
「仕事で失敗をして旦那様に叱られています」
「それでか」
「そうです。しかし過ちだけではありません」
生きていればだというのだ。
「よかったこともありますので」
「そうしたことをか」
「そうです。そうしたことも思い出されてはどうでしょうか」
「罪を犯してもそれでもか」
「人にあるのは罪だけではありません」
こうも言う呉だった。
「ですからどうか」
「罪だけではないか」
「そうです。ここでは楽しかったことも多いですね」
「かつてはな」
玄宗もそのことは認めた。他ならぬ楊貴妃との思い出がここにはある。かつての満ち足りた日々がある。
そのことは確かだ。そして呉もそのことを今言うのだ。
「ですから。どうか」
「そういうことも思い出していいのか」
「罪を感じられてもです。それが陰ならば」
「思い出は陽か」
「そうなるかと。世は陰陽の二つで成り立っていますから」
呉はこの国の独特の考えからも玄宗に話した。
「ですから。どうでしょうか」
「そうしてみるか」
玄宗はやや落ち着いた顔になって述べた。
「楽しみも思い出してみよう」
「はい、そうされて下さい」
「済まぬな。幾分心が晴れやかになった」
呉のその言葉によってだとも述べる玄宗だった。
そして張に顔を向けてこうも言った。
「そなたの従者のお陰だ」
「有り難きお言葉」
「余は暫くここにいる」
この梨園にだというのだ。
「そして色々と思い出してみよう」
「そうされますか」
「うむ。それではな」
玄宗はここでその両手をぽんぽんと叩いた。するとだった。
三人の周りに人が出て来た。玄宗はその彼等を出したうえで張と呉に述べた。
「では褒美も用意する。後はだ」
「案内して頂けますか」
「梨園の外まで」
「うむ、そうしよう」
玄宗は二人に微笑んで無言で礼もした。そうして二人に褒美を与えてそのうえで梨園の外まで案内させた。席のところに立ち二人の姿が見えなくなるまで見送った。
その見送りを受けて梨園を後にして本来の仕事も終えた。張は長安を去る時にこう呉に言った。
「済まないな」
「上皇のことですか」
「御心が少しだが救われた。いいことだ」
「私は」
「そなたの言葉で救われた」
呉が言うよりも先の言葉だった。
「まことにな。しかし」
「しかしですか」
「人は罪を感じるだけでは駄目か」
呉が玄宗に言ったことを自分でも言うんだった。
「そうだな。それだけではな」
「心が陰に覆われてしまいます」
「それはよくない
[8]前話 [1]次 最後
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ