暁 〜小説投稿サイト〜
ボロディンJr奮戦記〜ある銀河の戦いの記録〜
第104話 憂国 その4
[8/12]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
の仮装のつもりだったので、オジサンと言われて俺は咄嗟に自分のことを言われているとは思えず、左右を見渡すと白い視線が俺に集中しているのが分かった。

「おじさんて、もしかして俺のこと?」

 自分のことを指差して問うと、黒髪の女子学生は小動物のように少し怯えた表情で小さく何度も首を上下する。するといきなり後ろから「おい」と声を掛けられ、右肩を掴まれた。首だけ振り向けば、デニムのサマージャケットに身を包んだ若い男が俺を睨みつけていた。

「ここは炊き出しの場所じゃなくて、講演会の列なんだよオッサン。女の子に迷惑かけんじゃねぇよ」

 言葉はチャラいが、品の良さそうな金持ちのボンボンといった感じ。この私立大学はいわゆる上流階級の御用達というわけではないから、小金持ちといったところか。しかし見様見真似とはいえホームレスと間違われるくらい変装の出来がいいと思えば、自然と笑みが浮かんでくる。情報部や中央情報局の『モノホン』に比べれば大したことはないだが。

「なに笑ってんだよ。とっととどけよ」

 俺が鼻で笑ったことが気に障ったのか、右肩を掴むボンボンの手に力が込められた。なので俺は教科書通り、左手でボンボンの右手を押さえつけつつ、時計回りに体を廻しつつ右腕をボンボンの右腕の下から上へと吊り上げ、俺の右手首がボンボンの右肩より高い位置になったら逆に右腕を引きつつ体を押し込み、左手でボンボンの右肩関節をキメて身体を瞬時に道路に圧し潰す。ボンボンの背中に乗せた左膝に、空気が押しつぶされるような振動が伝わってくる。

「ここはグエン・キム・ホア平和総合研究会の講演会なんだろう?」
右手でボンボンの右手首を時計回しにギリギリと捩りながら、俺はボンボンに言った。
「俺は 物乞いに 来たんじゃなくて 礼儀正しく 講演会を 聞きに 来たんだよ、坊や」
 語節ごとに区切りながら丁寧に優しく言いながらも捩り続ける俺に、膝下のボンボンは情けない悲鳴を上げ続けるが、容赦をするつもりはまったくない。
「それともこの講演会は、容姿だけで入場者を選別するような、了見の狭い差別主義者の集まりなのかい?」

 俺がそう言って周囲を見渡すと、潮が引くように円形状に後ずさりしていく。その老若男女どの顔にも怯えたような表情が浮かんでいるが、その中から一人、しっかりとした足取りで飴色の髪をした中年の男性が歩み出てきた。整えられた太い眉と翡翠色の瞳には強い意志が見受けられる。

「君の言いたいことは分かるが、暴力はいけない。彼を放したまえ」
 俺を見据えるその紳士の言葉にも怯えは一切ない。
「列を乱すことなく並んでいたのに、いきなり言いがかりをつけられて、後ろから肩を掴まれてたのです。これは『正当防衛』ですよ」
「それは流石に無理があるとは思うが……」
 笑顔
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ